霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: P-05
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ポスター発表
ヤクシマザルに寄生する消化管内寄生性蠕虫Strongyloides fuelleborni, Oesophagostomum aculeatumの分子系統学的研究
*江島 俊MacIntosh Andrew JJ古市 剛史岡本 宗裕
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抄録

 [目的]ニホンザルに寄生する体内寄生性蠕虫類は現在5種類いることが知られており、ヤクシマザルにはそれら全てが存在している。これらの寄生虫の分子情報の報告例はまだ少なく、分類体系も不完全である。そこで本研究では、ヤクシマザルに寄生する5種類の消化管内寄生性蠕虫のうち2種類の寄生虫S. fuelleborni, O. aculeatumを対象とし、各寄生虫の核酸塩基配列を比較することで、屋久島内でのこれらの寄生虫が分子系統学的に多様化しているかを調査することを目的とした。
[方法]2011年9月2日から5日にかけて鹿児島県熊毛郡屋久島西部林道にてヤクシマザルの糞を採集し、普通寒天培地法により寄生虫卵を培養した。孵化した虫体S. fuelleborni, O. aculeatum のL3期幼虫を実体顕微鏡下で区別して取り出し、DNAを抽出した。その後ユニバーサルプライマーを用いてmtDNA cox1領域をPCR法により増幅、ABI3130を用いて塩基配列を解読、比較を行った。
[結果] S. fuelleborniでは、mtDNA cox1領域において屋久島内で既に報告されている同種の塩基配列と369塩基中3塩基変異が見られた。またO. aculeatumでは新規の登録となったが、今回採集した虫体の中から369塩基中14塩基変異のある2種類の塩基配列のタイプが見つかり、屋久島内でこれらの寄生虫が分子系統学的には単一でないことを示唆していた。
[考察]今回見つかった塩基配列のタイプの異なる寄生虫群が屋久島内で分化したとも考えにくいので、日本の本土の別の地域から寄生虫が移入した可能性が考えられる。今後さらに屋久島内の他地域から糞サンプルを収集し、寄生虫の分子情報を調べることで、屋久島内の寄生虫の遺伝的多様性と分布状況を推定できる。また日本の他地域から同様にサンプリングし分子情報を照らし合わせることで、屋久島への寄生虫の移入を考察する。

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© 2012 日本霊長類学会
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