抄録
霊長類ロコモーションの運動学的分析は40年間に渡って行われているが、分析対象となった種は10種程度である。理由のひとつは、これまでの分析が実験室内に限られていたことにある。演者らは最近、動物園での運動分析を経て、フィールドでの霊長類ロコモーションの運動学的分析を開始した。今回は、タイ王国において調査したマカク2種の地上四足歩行について、国内で計測したニホンザルの歩行との比較を行った予備的結果を報告する。アッサムモンキーは崖登りを運動レパートリーに持つ種であるが、その地上歩行には、ニホンザルに比べて前肢を着地時によりprotractし、股関節を離地時により伸展させる特徴があった。また、手指を外に向けて接地し、手根部を接地する傾向も見られた。歩容は前方交差型(Diagonal Sequence)が主であったが、後方交差型(Lateral Sequecne)も多用するなど歩容の選択に柔軟性が見られた。一方、ベニガオザルの特徴は前肢の使い方にあった。ベニガオザルの四足歩行時には、前肢の接地時間比が後肢より大きい傾向があり、これはニホンザルやアッサムモンキーにもある程度は見られる傾向だが、ベニガオザルで顕著であった。おそらく、肩峰点の前後方向の動きが大きいことと関連すると考えられる。つまり、前肢帯が歩行に大きく関与しているようであった。ベニガオザルも、ニホンザルよりは前肢を着地時によりprotractし、股関節を離地時により伸展させる傾向があったが、アッサムモンキーほどではなかった。ただし、今回の結果を得た野外での運動分析は精度が良いとは言えない。今後、データ数を増やし、計測結果の精度を上げることが課題である。また、形態データとの対応や、年齢・サイズの統制なども、解決すべき課題と言える。さらに、今回の結果が持つ意味を明らかにするためには、動物園生まれの同じ種との比較も必要であろう。