抄録
野生チンパンジーが夜に発声することは知られているが、その理由は明らかでない。そこでチンパンジーがどのような要因で目を覚ましているのか調べた。調査はタンザニア、マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーM集団を対象に、2011年8月26日から9月2日までの新月をはさむ5夜おこなった。チンパンジーは各個体が毎晩ひとつのベッドを作って眠る。調査では、追跡個体が日暮れに樹上ベッドを作り入ってから明け方にベッドから出るまでの夜間、聞こえてくるさまざまな音や声を記録した。目を覚ますきっかけとなる要因として、社会的要因(チンパンジーの声や活動音)、環境要因(他の動物の声や活動音)、生理的要因(夜の排泄)を分類し、それぞれがチンパンジーにどのような影響を与えるか分析した。チンパンジーの発声と活動音は計152回観察され、日没後、深夜、未明の時間帯にピークが見られた。発声と活動音の74%は、その前の発声や活動音から5分以内に起こっており、社会的要因によるものと考えられた。5分以内に観察された発声や活動音をひとつの連続したバウトとし(N = 39)、その直前の5分以内に観察された音を、バウトを引き起こした要因とみなしたところ、環境要因(N = 11)、生理的要因(N = 8)、要因不明(N = 20)が抽出された。生理的要因は環境要因よりもバウト時間の長い発声と活動音を引き起こしていた(生理的要因:平均9.0分、環境要因:平均1.5分、不明:平均3.9分)。環境要因である動物の声や活動音が聞こえた後は、チンパンジーが「フー」といった小声を出すのを多く観察したのに対し、生理的要因である排泄の後にはパントフート(遠距離届く声)が多く観察された。このことから、チンパンジーは夜間、糞尿がきっかけで目が覚め、暗闇の中で他個体が気になって発声し、それが他個体の反応を引き起こしていると考えられた。