抄録
フィンレイソンリス(Callosciurus finlaysonii)は,タイ,ミャンマー,ラオス,カンボジア,ベトナムの平地林に生息する中型の樹上性リスである.毛色が鮮やかで,地域あるいは個体ごとに多型があることが知られている.タイ南部の 3か所の調査地,KARN(チェチェンサオ県カオアンルアナイ),KK(パタヤ県カオキオ),SL(ロブリ県サプランカ)において,本種を捕獲し,耳タグによる個体識別をしたのち,背の中央と尾の先の毛を採取した.18か月後に同じ調査地を訪れ,同様の調査を行い,季節による毛色の差,成長に伴う毛色の差があるかどうかを調べた.採取した毛は測色計によって,L(明度),C(彩度),H(色相)の値をそれぞれ測定して比較した.その結果,KARNでは赤色タイプ,KKでは淡赤色タイプと黒色タイプの 2型,SLでは白色タイプが生息し,それぞれ4タイプの毛色は異なる特性を持つことが明らかになった.しかし,いずれの地域でも,成長や季節によって毛色が変化することは無かった.また,どの毛色においても性差は無く,体重との相関も見られなかった.毛色の違いが,社会的な順位や配偶者選択などに影響している可能性は認められなかった.一方,それぞれの調査地で,直接観察によって,目撃時の行動が森林のどの位置で行われていたかを記録した.採食行動は,どの毛色においても,高木あるいは亜高木層の枝先がもっとも多く,毛色の間で顕著な違いは認められなかった.しかし,移動,休息,社会行動などその他の行動において,黒色タイプは低木層を多く利用し,ヤブなどに潜むことが多いのに対し,白色タイプは主幹を利用し,あらゆる階層を利用する傾向があった.赤色および淡赤色タイプは高木あるいは亜高木層の枝先を多く利用する傾向があった.毛色の違いに伴って,利用する森林空間が異なることから,本種の毛色の多型には,保護色としての機能が関わっていることが予想された.