抄録
ネズミの陰茎および陰茎骨は種によって変異に富み,陰茎骨が種の標徴形質(diagnosis)として使われることがある.しかし,その中には齢変異や個体変異もあることが先行研究から明らかになっている.また,日本産Apodemus属の陰茎および陰茎骨については,徳田御稔(1934,1941)が行なった研究例を除いてほとんどされていないのが現状である.そこで,本研究ではアカネズミ Apodemus speciosusとヒメネズミ Apodemus argenteusを用いて,陰茎骨の成長と種間変異について調べた.陰茎骨はカルシウムが蓄積した骨化組織を染めるアリザリンレッド染色標本にして計測を行なった.成長の基準には,性成熟する体重が先行研究で明らかになっていることから,体重を用いた.その結果,両種ともに性成熟前後に著しい成長が確認された.また,種間変異については,それぞれの種内で個体変異が認められるものの,陰茎骨のサイズに関係なくアカネズミはヒメネズミに比べて比較的細く長い陰茎骨を持つ傾向があった.
また,アカネズミは島嶼間で頭骨など形態に変異があることが報告されている.そこで,生殖の可否に重要と考えられる部位にも変異があるか明らかにするために,島嶼間における陰茎および陰茎骨の地理的変異について調べたものを報告する.