抄録
イルカンダ Mucuna macrocarpaはマメ科の木性蔓植物である.本種では固く閉じた一対の花弁(竜骨弁)の内側に雄蕊と雌蕊がしまい込まれているため,他家受粉を行うためには送粉に先だって竜骨弁を開き,雄蕊と雌蕊を露出させるプロセスが必要である.このプロセスは裂開(explosive opening)と呼ばれるが,植物自身は竜骨弁を開くことはできず,完全に動物に依存している.花が裂開することで初めて花の基部に溜まっている蜜が外に流れ出し,動物が採餌できるようになる.Mucuna属に見られる裂開のプロセスは一般に食植性コウモリ類が担っており,花の諸形質もコウモリ類に対応して進化してきたとされる.沖縄島でもイルカンダの花をオリイオオコウモリのみが裂開することが明らかとなっているが,分布の北限に位置する大分県蒲江では,ニホンザルとニホンテンがこの役割を担っていた.中でもニホンザルは,オリイオオコウモリが鼻先を花弁の間に押し込んで裂開するのとは全く異なり,両手を用いてイルカンダの花を裂開した.さらに,裂開した花の数はニホンテンに比べ多く,蒲江では裂開をニホンザルに強く依存していることがわかった.しかし,オリイオオコウモリが訪花した花の竜骨弁を確実に裂開するのに対し,ニホンザルでは花をもぎとった後で裂開する行動や,裂開をせずに花の基部を直接噛みちぎって蜜を採餌する行動(盗蜜)も多く観察された.ニホンザルが訪花した際にイルカンダの花をどのように扱うかは,個体によって差があるように思われた.本講演では,自動撮影で記録したニホンザルのイルカンダの花に対する行動から,イルカンダへの貢献度の個体による違いを考察する.