抄録
ヨザル(Aotus属)は南米大陸の北部地区に11種が確認されており、染色体数は49本~58本と大きく変化している。その違いは分布域の南部から北部に向かって、染色体数の少ない方から多い方へクラインが観察される(Menezes et al. 2010)。形態による分類はその酷似性から極めて難しく、しばしば種同定の間違いが見受けられる。そのため、特に、飼育個体において種間雑種が起こりやすいことが推測される。我々は、染色体解析において、霊長類研究所で飼育されるヨザル16頭のうち4頭が種間雑種であることを発見した。先行研究において研究所には異なる染色体数を持つ2種(コロンビア北部に生息するAotus grisemembra(2n=53)とボリビア北部に生息するA. azarae(2n=49 (M), 50 (F)))が存在することが確認されていた(Nagao et al. 2005)。我々の染色体解析の中で、染色体数が親種とは異なる染色体数(51, 52, 52, 53)を持つ4個体のメスが観察された。そのうち2個体は染色体数の違いだけであったが、残り2個体のうち1個体(変異個体1)はX染色体のトリソミーが、1個体(変異個体2)は転座変異と常染色体のトリソミーが個体内モザイクとして観察された。
これらの変異染色体を染色体彩色プローブやアルファサテライトDNAを用いて分子細胞遺伝学的に解析したところ、変異個体1におけるX染色体のトリソミーはA. azaraeのX染色体が増加したこと、変異個体2は3種類の染色体変異が複合的に存在することが観察された。その第1変異は小型常染色体のトリソミーで、皮膚および血液細胞の両方に観察された。第2および第3変異はA. azaraeの小型染色体(ヒト17番染色体に関わるもの)が他染色体に転座した変異であった。しかも、その転座変異は皮膚細胞と血液細胞において変異の存在様式が異なっていた。すなわち、皮膚では転座変異は観察されず、血液では野生型と変異型がキメラ状態で観察された。これらの変異は雑種形成によって引き起こされたものと推測される。