抄録
ニホンザルは他のマカク属サルには見られない形態的特徴・社会的特徴を有しているとされ,運動学的,生理学的,認知学的,あるいは病理学的な様々な研究が進められている.
マカク属の比較ゲノム解析には,2007年に公開されたインド産アカゲザルの全ゲノム配列(rheMac2)が参照配列として広く使われてきたが,ニホンザルを対象にした地域間ないし個体間の比較を行うためには,高精度かつ大規模な配列情報を元にしたニホンザル固有の参照配列を用いることが望ましい.そのため,我々はゲノムの200倍以上の被覆度を持つ配列(Illumina Hiseq2000による大阪府箕面産の個体の配列)を用いて参照配列の作成を進めているが,これと並行して,青森県下北半島産・長野県北部産・宮崎県幸島産の3個体のニホンザル,タイワンザル1個体*,タイ産カニクイザル1個体,中国産アカゲザル1個体*について,それぞれ約50倍の被覆度の配列データを用意し,rheMac2を参照配列とした比較ゲノム解析を実施した(*京大霊長類研究所共同利用研究).
ニホンザルは比較した他の個体に比べてホモ接合性が極めて高く,他のマカク属サルではヘテロ接合で有しているSNVs(single nucleotide variants)の多くがニホンザルではホモ接合となっていることが明らかとなった.分子系統学的解析の結果から,ニホンザルのゲノムの分岐年代(約144万年前)や有効集団サイズの歴史が推定され,これによって,ニホンザルが大陸から渡ってきた年代(約60万年前)や,ニホンザルに普遍的と思われる共通の強いボトルネックが約10万年前に存在することが推定できた.さらにSNVsの詳細な解析から,ニホンザルに特有なSNVsやニホンザルで有意に進化速度が速いと思われる遺伝子候補を見出した.本会では,全ゲノムレベルの大規模解析によって得られたニホンザルゲノムの特性について報告する.