抄録
動物園などで飼育されている個体には、環境や餌資源の変化などによって野生個体とは異なる形態的特徴が見られることが知られている。しかし、形態変化が飼育開始以降、世代を経るに従ってどのように生じていくのかという点についての検討例は少ない。日本モンキーセンターでは1956年の設立以来、世界最大のサル類動物園を運営しており、飼育履歴が明らかな個体の標本を多数保存している。その中でも、ヤクニホンザルは1957年から長期にわたり飼育されていることから、飼育に伴う形態の変化を検討するために適した材料である。本研究では特に餌の違いの影響を受けやすいと考えられる下顎における形態変化について検討した。成体オス63個体、メス85個体の下顎骨側面観をデジタルカメラにより撮影し、標識点および準標識点の座標データに基づく幾何学的形態測定法による解析を行った結果、オスでは下顎骨のサイズが徐々に小型化している傾向が認められた。その一方でメスでは下顎骨のサイズに変化は見られなかった。形状について、オスではサイズの小型化と相関する歯槽部の相対的な縮小と筋突起および角突起の拡大が見られたほか、下顎枝の形状の変化が見られた。メスでもサイズとは相関しないものの、歯槽部の相対的な縮小と下顎枝の拡大が見られた。さらにメスでは、屋久島で捕獲された後にセンターで長期飼育された個体とセンターで生まれ成長した個体の双方に同様の形状変化の傾向が見られた。