抄録
裂手症に相当すると考えられる手指の先天的形態異常を有するニホンザルの前腕の筋構成について観察した.標本は京都大学霊長類研究所所蔵のニホンザル雄成獣1頭で,左右の手足に先天的形態異常を有する.本報告においては左前肢について肉眼的に解剖し筋構成および末梢神経の構成,走行分岐パターンを詳細に観察した.対象肢の指は2本で,橈側の指には橈骨の遠位に2個の骨が認められ,近位の骨は太く長く,遠位の骨は小さかった.尺側の指には尺骨の遠位に4個の骨が認められ,近位の骨は細長く,遠位の3個は短かった.遠位端には爪が認められ,遠位の3個は基節骨,中節骨,末節骨に相当すると思われる.近位の骨は中手骨に相当すると思われ,手根骨に相当すると思われる骨要素は認められなかった.指間の切れ込みは橈骨および尺骨の遠位端よりも近位まで切れ込んでいた.上腕骨の形態,肘関節の構成に異常は認められなかった.橈骨は尺骨よりも長く,橈骨遠位端は丸い鈍端をなしており,前腕骨間膜,下橈尺関節は認められなかった.上腕の筋の構成および末梢神経の構成や走行分岐パターンに異常は認められなかった.前腕では屈筋においても伸筋においても,上腕骨から起こり前腕近位部に停止する筋,例えばM. epitrochreoanconeusや回外筋は容易に同定できた.長掌筋,尺側手根屈筋,腕橈骨筋,長および短橈側手根伸筋,尺側手根伸筋については相当する筋を推定することは比較的容易であった.しかし,前腕の遠位部あるいは手に停止する筋には乱れがあり,標準的な筋構成との対比が困難な筋が多く認められた.前腕における末梢神経の構成や走行分岐パターンは標準的な形態に非常に近いと思われた.これらの形態の形成について考察したい.なお,本研究は2015年度京都大学霊長類研究所共同利用・共同研究として実施している.