アカエリマキキツネザル(Varecia rubra)に対し飼育下でおこなった先行研究において,色の選好に偏りがあることを発見した(Inoue and Shindo 2014, IPS他)。タッチパネルをもちいた2選択の色見本合わせ課題において,青のみ有意に正答率が低く(青28%,赤72%,黄81%),また反応潜時が長かった(青9516ms,赤2771ms,黄2761ms)。本種および2001年まで亜種として扱われていた近縁種であるクロシロエリマキキツネザル(Varecia variegata)は,種内で色覚多型を持つことでも知られているが,その背景はもちろん基礎的な色の知覚についてまだ分かっていないことが多い。そこで,クロシロエリマキキツネザルの生息地のひとつTorotorofotsy-Ihofa, Madagascarにて,生息環境において色知覚に影響を及ぼすような要因があるか探った。5頭から構成される1群のテリトリーを対象に18日間の調査をおこなった。群れの総観察時間(44時間53分)のうち休息(39%)と採餌(38%)に占められる割合が最も多く,すべての時間を20m以上の木々の樹冠部で過ごした。これらの行動のうち採餌に注目したところ,枝に両足でつかまって逆さまの状態で細い枝先の果実に近づき,顔を空に向ける形で採餌する行動を頻繁に示した。また,同種の利用する樹木や果実等の色を調べたところ,赤‐緑の色相に分類されるものが多く,青に分類されるものはみられなかった。これらの結果および先行研究の結果から,果実の背景となる空の明るい青色を避けることは,採餌をスムーズにおこなう効果がある可能性が考えられる。今後,飼育下,野生下双方において,色の彩度や明度を加えたより細かい分析をおこない,生息環境と色知覚の関係について検討していく。