霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: P46
会議情報

ポスター発表
京都市動物園におけるチンパンジーの学習展示
*田中 正之吉田 信明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

京都市動物園では,類人猿舎学習室においてチンパンジーがタッチモニターを用いてアラビア数字の系列学習課題に取り組む「お勉強」を展示している。1日当たりの実施時間は40分から1時間程度で,映像ではなく直接見ることによって,チンパンジーの知性を実感することができる展示となっている。「お勉強」は,チンパンジーに対する認知的エンリッチメントとしても実施しており,参加はチンパンジー自身の意欲によるもので,給餌等の制約は一切行わずに実施している。2009年5月に4個体を対象に開始したこの取り組みは,現在まで96か月に渡る。本発表では2017年1月分までの計93か月(1365日)分のデータを分析した結果を報告する。一月平均の実施日は14.7日であった。この間には,新規個体の導入や他園への移動,出産,死亡などがあったが,その時に飼育していた個体のすべてが自発的に参加してきた(中央値4頭)。課題の難易度は,チンパンジーの学習の進展によって個体ごとに変えた。一日当たりの群れ全体のセッション内総反応数(タッチモニターへの反応が記録された数)の平均は,1802であり,試行数としての平均は342.8試行だった。この値は月により大きく増減したが,8年間を通して見ると一日の総反応数は開始した年から変化は見られなかった(2009年平均1911→2016年平均2011)。また,特定の月に減ったり増えたりする明確な傾向も見られなかった。これらの結果から,チンパンジーの意欲は下がることなく,彼らの認知的要求に応えられていることが示唆された。この間,2013年2月に赤ん坊が生まれた。この個体は1歳齢で自ら大人の課題に手を伸ばす形で参加を始め,当初はほとんど報酬が伴わないにもかかわらず,タッチモニターへの反応は維持された。やがて自らのレベルに応じた課題に取り組み始め,4歳齢になる2017年2月時点で1から7までの系列学習課題に取り組んでいる。

著者関連情報
© 2017 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top