主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
マレーシア・サバ州のダナムバレー保護区で雌テナガザル(Hylobates funereus)による交尾時の音声を観察した。この音声は二つの音要素からなり,そのうちの一つは交尾時音声に特有であった。また,この音声の半数近くは縄張り境界付近で観察された。交尾は歌の最中にも起こり,しばしばこの音声が歌に挿入された。霊長類における交尾行動に伴う雌の音声は受胎の信頼性を雄にアピールし雄からの保護や子育て支援を引き出し,子殺しを防ぐ機能があると考えられている。一夫一妻の家族生活を基本とするテナガザルの社会では雌が雄にそのようなアピールをする必要性はない。しかしながら,今回交尾行動に伴う雌の明瞭な音声が観察された。この事実はテナガザルの一夫一妻関係が不安定であることを示唆するのではないかと考えられる。サバ州のダナムバレーとインバック両保護区でこれまで4つのグループを長期間追跡したが,そのうち3つで大人雌が失踪し,うち2つで新たな雌が流入した。この地域のテナガザルの社会では雌の群れ間移動が頻繁に起こっている可能性がある。