霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: A19
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口頭発表
金華山島のニホンザルにおける抱擁行動パタンの変異とその代替行動
*中川 尚史
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抄録

旧世界ザルとして初めての社会的慣習として知られるようになった抱擁行動。リップスマックという表情やガーニーという音声を伴うことが多く,触覚,視覚,聴覚の信号からなる複合感覚信号という点でも注目されている(Shimooka & Nakagawa, 2014)。宮城県金華山島では対面型で,向き合った相手の体に腕を相互に回し体を大きく前後に揺するのに対し,鹿児島県屋久島では,対面型のほかに側方や後方からも腕を回し,相手を掴んだ掌の開閉動作を伴うという違いがある(Nakagawa et al., 2015)。共通点としては,リップスマックやガーニーを伴うこと以外に,闘争直後や毛づくろいの中断時に代表されるような緊張場面で起こり,その直後は毛づくろいに移行することから,緊張を緩和し,毛づくろいへの移行を促進する機能があると言われている。他方,抱擁行動の知られていない個体群も知られているが,同様の機能のある代替行動は不明である。本発表では,Shimooka & Nakagawa(2014)で記載された上述のような金華山での典型的な抱擁以外にどのようなパタンの変異があり,代替行動と見なせるのかについて報告する。1984年11月から2013年3月までの間に断続的に行った金華山A群の調査で得られた抱擁行動のすべての事例をもとに分析を行った。その結果,抱擁の方向としては既報どおり対面型しか見られなかったものの,向き合った2頭のうち1頭しか腕を回していない事例,さらには2頭とも腕を回さずもはや抱擁ではないがリップスマックやガーニーは見られる事例があり,生起した文脈から緊張緩和の機能があり,代替行動と考えられる行動が見られた。以上のように明らかな代替行動から典型的な抱擁までの間に様々な中間型が見られたことで,抱擁行動の文化の形成過程を探る示唆が得られた。それと同時に,典型的な抱擁は,いずれかの信号が欠けても同じ効果がある冗長な信号なのか,あるいは効果が異なってくる非冗長な信号なのについても示唆が得られるだろう。

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