霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: P26
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ポスター発表
飼育下の大型類人猿とヒト幼児における定位操作の発達から見た野生での道具使用行動
*林 美里竹下 秀子
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抄録

物の操作を調べることで,ヒトを含む霊長類の認知発達を直接比較することができる。とくに物同士を組み合わせる定位操作は,道具使用の基盤となる操作で,認知発達の指標として用いることができる。定位操作は,ヒトで生後10か月,母親に育てられたチンパンジーでは生後8-11か月で初出した。物を穴などに「入れる」という定位操作は,チンパンジーでもヒトと同様に1歳前という発達初期から見られた。一方,積木を「つむ」という定位操作は,ヒトに比べてチンパンジーでは遅くあらわれた。積木をつむ行動を獲得したあとは,物理的な特性の理解をはかるための形の異なる積木を導入した課題において,ヒト幼児とチンパンジーに同様な定位操作が見られた。また,入れ子状に円形のカップをかさねる課題でも,ヒト幼児とチンパンジーが同じように試行錯誤的な組み合わせ方略を使うことがわかった。物の操作の発達過程について,チンパンジー以外の大型類人猿にかんする知見は非常に限定的だ。ヒト幼児(0-4歳)とチンパンジー(0-4歳)の縦断的研究,およびボノボ(3-4歳),ゴリラ(2-3歳),オランウータン(1-2歳)の横断的研究から,「入れる」と「つむ」という定位操作を含む2種類の課題において種間比較をおこなった。その結果,すべての対象種で,観察期間中に定位操作が出現することを確認した。しかし,発達の順序とタイミングは種ごとに異なっていた。他の大型類人猿に比べて,チンパンジーでは「入れる」という定位操作が,ヒトと比肩しうる早い発達段階で獲得されることがわかった。飼育下での比較においてチンパンジーが早い時期から定位操作を開始することは,野生下でチンパンジーがもっとも多様な道具使用をおこなうことの説明要因となっている可能性がある。すべての大型類人猿が,道具使用の基盤となる定位操作をおこなう認知能力を有しているものの,野生での道具使用の発現には環境要因などほかの要素が関与している可能性が示唆された。

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