霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: A22
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口頭発表
淡路島餌付けニホンザル集団における合成プロゲステロン投与による避妊処置
*山田 一憲中道 正之清水 慶子草村 弘子延原 久美延原 利和
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抄録

淡路島ニホンザル集団は,ニホンザルの多様性を理解する上で,重要な地域個体群である。一方で,他の餌付け集団と同様に,個体数増加の抑制が課題となっている。発表者らは,2011年に淡路島ニホンザル集団の保護・管理のためのミーティンググループを組織して,長期的な個体群管理と捕獲によらない個体数調整の方法を検討してきた。本発表では,2012年の秋から継続しているホルモン剤投与による出産抑制の効果を発表する。ミーティンググループは,公苑管理者,研究者,獣医師,地元住民の8名のメンバーと5名のオブザーバーから構成されており,毎年交尾期が始まる前に,投与対象個体,投与量,投与期間,投与間隔を決定した。個体識別ができる公苑管理者が,これらの取り決め通りに,合成プロゲステロンの経口投与を実施した。1年を通して対象個体の行動を観察し,異常がないか確認を行った。実施にあたっては,大阪大学大学院人間科学研究科動物実験委員会の審査と承認を受けた。投与開始前(2012年)の集団の個体数は356頭であり,出産率は61.0%であった。1頭あたりの1日の平均給餌量は298kcalであった。2018年までに延べ645頭の成体メスに対して投与を行い,そのうち翌年の春に出産した個体は延べ81頭であった。投与個体の出産率は12.6%であり,2013年以降の集団全体の出産率は26.6%であった。計画通り投与できた個体の出産は,ほぼ抑制できた。淡路島集団では,交尾期何日も餌場にあらわれない個体が時折みられる。このような個体が投与対象の場合,計画通りに投与ができず,出産に至った事例があった。そのような場合でも,対象個体や新生体に問題は生じていなかった。本研究から,個体識別に基づいた計画的な合成プロゲステロンの経口投与は,餌付けニホンザル集団の出産率を抑制する効果を持つことが示された。

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© 2019 日本霊長類学会
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