霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
フクロテナガザルとヒトのヒラメ筋における支配神経筋内分布比較
櫻屋 透真江村 健児薗村 貴弘平崎 鋭矢荒川 高光
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p. 36-37

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抄録

ヒトのヒラメ筋は前面に羽状筋部を持ち腓骨頭から腱弓を介して脛骨のヒラメ筋線に及ぶ幅広い起始部を持つのに対して,ヒトを除く霊長類全般では前面の羽状筋部が存在せず,腓骨頭のみから起始していることから,ヒトの直立二足歩行への適応を語る上でヒラメ筋の羽状筋部が大きな意味をもつことが示唆されてきた。また筋の発生を考える上で極めて重要な支配神経に着目すると,ヒトのヒラメ筋では後面への枝 (Posterior branch; PB) とは別の,前面の羽状筋部へ進入する枝 (Anterior branch; AB) を有している。我々はこれまでヒラメ筋の支配神経を霊長類種間で比較してきた中で,ヒラメ筋のPBとABは由来が異なる可能性があること,ABはヒトから系統的に離れた霊長類種と,ヒトに近い類人猿に現存することを明らかにしたが,羽状筋部を持たない類人猿のABがどのようにヒラメ筋内に分布するのか詳細は分かっていなかった。そこで,先行研究でAB相当の枝を認めたテナガザルとヒトのヒラメ筋支配神経の筋内分布を詳細に解析し,ヒトと他の霊長類のヒラメ筋の成り立ちの考察を試みた。ヒト1体1側,フクロテナガザル1体2側のヒラメ筋支配神経の筋内分布を,実体顕微鏡を用いてデジタル画像とスケッチにて記録し,Sekiya (1991) の分類に基づき各枝を分類した。ヒトとフクロテナガザル全例においてPBは先行研究と同様に5種類の枝に分類された。また,ヒトのABは,PBと交通しながらも,PBから独立して羽状筋部を支配するのに対し,テナガザルのABは独立した支配領域を持たなかった。今回の所見から,ヒトのABは進化の過程でPBと混ざってヒラメ筋を支配し始め,ヒトで直立二足歩行を獲得する段階でABの支配領域を拡大し羽状筋部を形成するに至ったと考えたい。一方,フクロテナガザルのABの現存は,ヒトのABが再獲得される初期段階を示すものか,フクロテナガザルで単に遺残したものかは今後検討する必要がある。

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