主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 38
開催地: 京都府
開催日: 2022/09/16 - 2022/09/19
p. 38-
コロブス類は葉食に特化した食性を示し、反芻動物のような複数に分かれた胃をもつ。葉には二次代謝産物として、青酸配糖体やアルカロイドなどの毒性成分や難消化性成分が含まれる。コロブス類でも反芻動物のように複胃中の微生物がこれらの物質を分解することが示唆されているが、その分解機構や関与する菌種については不明である。我々は、コロブス類の前胃内細菌がもつ植物二次代謝産物の分解能を明らかにすることを目的として、テングザルの前胃内細菌の分離培養を試みた。これまでに飼育テングザルの前胃には、新種の乳酸菌(Lactobacillus nasalidis)が共生していることを発見している。そこで、野生テングザルの前胃内容物の凍結乾燥試料を用いて本乳酸菌種の分離培養を試みたところ、野生個体からも分離に成功した。つまり、この乳酸菌はテングザルに固有で、本種にとって重要な菌種だと考えられる。野生、飼育個体由来株の生理生化学性状を比較したところ、野生個体由来株では飼育個体由来株とは異なり、難消化性オリゴ糖ラフィノースに分解性を示し、塩耐性は低かった。また、青酸配糖体アミグダリン含有培地で48時間培養した後、培地中の総シアン量と遊離シアン量を測定したところ、飼育個体由来株は、野生個体由来株やウマ、ブタ由来乳酸菌に比べて遊離シアン量が多く、多くのアミグダリンが分解されていた。アミグダリンの分解には二経路あり、マンデル酸が産生された場合は毒性を示さないが、ベンズアルデヒドが産生された場合はシアン化水素を発生し毒性を示す。現在、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)を用いた化学分析により、アミグダリンの分解経路の特定を試みている。これらの結果を踏まえて、テングザル固有乳酸菌のもつ機能について、生息環境や採食物がどのように影響するかを議論する。