主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 39
開催地: 兵庫県
開催日: 2023/07/07 - 2023/07/09
p. 45-46
野生霊長類にとって睡眠場所の選択は捕食者回避や効率的な採食の観点から非常に重要な要素である(Albert et al.2011など)。本研究ではマレーシア・サバ州のキナバタンガン川支流に生息するミナミブタオザルを対象に、睡眠場所選択に影響を及ぼす要因を調査した。対象集団は河川とプランテーションに挟まれた遊動域を持ち、アブラヤシの果実を採食することが観察されている。2012年7、8月に1頭のメスにGPSテレメトリを取り付け、10分おきに50日間位置情報を記録した。また2012年6月から2014年7月の434日間、ボートセンサスを実施し対象種の河岸への出現を記録した。睡眠場所の83.7%(41/49)は川から50m以内にあり、プランテーション境界から50m以内は睡眠場所として選択されなかった。記録された位置データを、switching correlated random walk modelにより滞在モードと移動モードに区分した結果、滞在モードの時間はプランテーション境界から50m以内では有意に短かった[Steel-Dwass, α=0.01]。川岸における対象種の出現頻度は、河岸特異的な果実の存在量と正の相関があり、捕食圧に影響する川の水位と負の相関があった(CtSEM, 95% PCI not including 0)。マカクは採食のために河岸とプランテーションの両方を利用するが、追い払いやトラックの通行などの脅威により、プランテーションで過ごす時間は短くなり、対捕食者戦略の一環として河岸を睡眠場所として好むと推測された。生息地の保全には食物環境の改善だけでなく、野生動物にとっての脅威に配慮した、恐れの景観(Landscape of fear)の概念に基づいた取り組みが必要である。