抄録
ギニア共和国ボッソウ村周辺に生息するチンパンジー群については、1976年以来、長期継続調査が行われており、人為的影響の大きい環境下でのチンパンジーの生態が明らかにされてきた。ボッソウの人々は、村近くの精霊の森に棲むチンパンジーを祖霊の顕現として崇め、独特のやり方で保全してきた。2022年9月、ボッソウの老齢メスチンパンジー1頭が死体で発見された。本発表は、人とチンパンジーが独特の関係を持つこの村で、死体発見の翌日に執り行われた老チンパンジーを弔う「葬儀」の様子を報告する。精霊の森バンの北麓にある儀礼の森で村の子どもたちの割礼儀礼が行われていた2022年9月19日、同地近くの林内でチンパンジーの死体を村人が見つけた。同地域は外部者立ち入り禁止であったため、調査協力者の村人が検屍を行い、腐敗の度合いから死後1-2週間と推定された。また、死体の形状や前後の観察情況から、死亡したのは推定年齢66歳の老齢メスFanaであると推定された。ボッソウ環境研究所所長の指示で、翌日、官公庁の代表者や近隣で活動する自然保護プロジェクト関係者、村の有力者、報道関係者らが招待され、Fanaの葬儀が執り行われた。死体は村に運ばれ、白衣に包まれ、研究所横に土葬された。葬儀の次第は人に対して行われる通常の葬儀をなぞったものであった。このようなボッソウ環境研究所主導の葬儀はこれで2度目であり、生誕時の「洗礼」儀礼も含めると三度目となる。「チンパンジーの葬儀」は比較的最近、外部者の政府系役人によって始められたもので、当地の生態系と地域の人々の文化を保全する研究所の役割を外部に示す機能持つと思われる。Fanaの葬儀は、招待された報道関係者により数日のうちに欧米やアフリカ各地にネットニュースで配信され、また参加者によりSNSを通じて拡散された。地域資源の現代的な活用事例として考えるべき興味深い事例であるといえる。