抄録
演者らは,サル類における腸管寄生アメーバの感染状況について調査を行ってきた。Entamoeba nuttalliはマカク属のサルを自然宿主とし,ヒトを宿主とする赤痢アメーバに最も近縁なアメーバ種である。これまでにアジア各地において,マカク由来のE. nuttalliについて,セリンリッチタンパク質遺伝子などの多型について解析を行い,マカクの種や地理的分布の違いを反映する多型を確認している。また,最初にネパールのアカゲザルから分離した株については全ゲノム解読を行い,赤痢アメーバなどの近縁種との比較解析を行ってきた。現在,ニホンザル由来株を中心にアジア各地の分離株について全ゲノム解読を進めており,これまでに得られた結果について報告する。ネパール株のゲノム配列と比較して変異解析を行った結果,アカゲザル由来株ではミャンマー株はネパール株よりも中国株に近く,また,タイのカニクイザル,アッサムモンキー,ブタオザル由来株などにも近縁であった。すなわち,腸管寄生アメーバのゲノムの類似性は宿主のマカク種よりも地理的な距離に強い相関が認められた。一方,ニホンザル由来株では,岡山県,兵庫県,石川県の分離株は大陸株に近いのに対し,東日本の分離株は独自のグループを形成した。2座標分析の結果から,ニホンザル由来株に見られる比較的大きなゲノム多様性はニホンザルの寒冷への適応の過程で生じた可能性が考えられる。