抄録
リスザルの絶滅種あるいは化石種であるNeosaimiri の大きな特徴として、下顎大臼歯の遠心舌側に存在するpostentoconid notch (以下notch) がある。これは、他の新世界ザルには見られない特徴である。他の新世界ザル同様、現生リスザルもnotchを持たないと考えられていたが、標本調査によりnotchを持つ個体を確認した。咬合の際に下顎大臼歯のentoconidと上顎大臼歯のhypoconeが咬み合うことから、notchとhypoconeとの間に何らかの関係がある可能性が高い。本研究では,Neosaimiriと現生リスザル両者の臼歯形態を比較検討し、リスザル類の進化を考察する。まず、現生リスザルのnotchを持つ個体の頻度を調べた。そして、Neosaimiri、notchを持つ現生リスザル、通常の現生リスザルの3つにグループ分けした。3グループのhypoconeの高さと上下第1大臼歯のサイズを計測し、notchの有無との関係性を調べた。現生リスザル全体におけるnotchの頻度は、Neosaimiriに比べると低いものであった。加えて、Neosaimiriとnotchを持つリスザルは、hypoconeの高さとM1(上顎第1大臼歯)のサイズで似ていることがわかった。いっぽう、notchを持たない通常のリスザルではhypoconeの高さのバリエーションが広く、低いhypoconeをもつ個体が他の2グループよりも増加していた。また、M1のサイズは他の2グループよりも小さかった。今回の結果から、postentoconid notchと、ある程度高いhypocone、大きなサイズのM1は関係性が強く、現生リスザルにおいてこれらの特徴は原始的であること、臼歯形態の多様性がNeosaimiriから現生リスザルまでの進化過程において高まる傾向にあることが示唆された。