2022 年 31 巻 p. 154-171
主にシカ食害による植生破壊で最も絶滅が危惧されるチョウとなった「種の保存法」の国内希少野生動植物種・ツシマウラボシシジミの保全を目的として,a)保全エリアでの保護増殖活動,b)農林業との連携活動,c)地域住民との連携活動,の3つの課題に取り組んだ.この事例を基に,「希少種保全─農林業─地域住民」の共存共栄における模範的役割を目指した.保護増殖活動では,防鹿柵の増設により保全エリアを改善した他,新たな保全エリアを設けて環境整備と食草植栽,放逐実験を実行し,一年を通じた食草利用について検証した.農林業との連携活動では,本種の好む環境を備えたホダ場を所持する椎茸農家との協働に成功した.地域住民との連携活動では,地元中学校・高校への標本寄贈と食草植栽体験を行い,将来的に本種の保全を担う人材を育成した.また,保全シンポジウムをハイフレックス形式で2回開催するとともに,第1回では一般市民向けの観察会・食草植栽体験を実施した.缶バッジやリーフレット,食草ポットも無料配布して本種の保全活動を広く周知した.