抄録
【目的】
Mini-BESTest はBESTestの簡易版として2010年にHorakらによって報告された.特徴は4つのセクション(合計32点)で構成され,バランス能力を多面的かつ簡便に評価できることである.Mini-BESTestは様々な疾患に対して測定が可能とされているが,その有用性について,まだ十分な検証は成されていない.そこで,本研究では脳血管障害患者(CVA患者)に対してMini-BESTestを実施し,MiniBESTest得点と転倒との関連について調査したので報告する.
【対象と方法】
対象は当院に入院し,同意の得られたCVA患者25名(男性21名,女性4名,平均年齢65.28±10.93歳)とした.そのうち,入院中に転倒した者を転倒群(8名),転倒しなかった者を非転倒群(17名)に分類した.対象者の歩行自立度は転倒群,非転倒群それぞれ,FIM7(0名,12名),FIM6(0名,0名),FIM5(4名,5名),FIM4(2名,0名),FIM3(1名,0名),FIM2(1名,0名)であった.方法について,MiniBESTestは入退院時に各1回計測し,総得点およびセクション毎の得点を算出した.転倒群と非転倒群それぞれの得点を算出すると共に,群間におけるバランス能力の傾向について調査した.両群間のデータ解析にはt検定を用い,有意水準は5%とした.
【結果】
平均総得点は転倒群7.13±7.83点,非転倒群21.47±6.72点で,両群間の平均総得点には有意差を認めた(p<0.05).また,両群間のセクション別平均総得点はそれぞれ1)姿勢変化・予測的姿勢制御(2.25±2.38点,5.82±1.94点),2)反応的姿勢制御(0.50±1.41点,3.88±2.50点),3)感覚機能(3.00±2.67点,5.35±1.50点),4)歩行の安定性(1.38±2.50点,6.41±2.79点)であり,セクション3を除く全てのセクションにおいて両群間に有意差を認めた(p<0.05).
【考察】
Mini-BESTest総得点,およびセクション3を除く全ての得点において,転倒群と非転倒群間に有意差を認めた.これについて,セクション3は他の3つのセクションと比較し,静止位でのバランスを評価する項目が多かったことから,転倒群は非転倒群と比較し,特に動的バランスの低下が大きいことが示唆される.また,Mini-BESTestは脳卒中の他のバランス評価スケールと比較し,評価項目が細分化されているため,患者のバランス面のうちどこが問題点なのかをより明確にでき,臨床にアプローチとして活かしやすい指標となりうると考えられた.今後は症例数を増やし,Mini-BESTestと転倒との関連について検討を重ねることで,転倒予測指標として臨床に応用されうると考える.
【まとめ】
Mini-BESTestは転倒予測指標としても,それを利用したアプローチを考慮するうえでも有用と考えられる.