抄録
「品質とは顧客(ユーザ)の満足である」として「当たり前品質」「一元的品質」「魅力的品質」の3類型を示した狩野らの説は, 現在日本の産業界においては認知されたかに見える.しかしこのようにユーザを単なる欲望人間と見なし, 満足度という1軸のみで品質を測るのではなく, 著者はユーザの「心」を人間本来の願望の面から捉え, ユーザの希求する品質を「安心」と「満足」の2軸に分類する.また, この2つを総合すれば「品質とはユーザの「平安」である」と表現することが出来る.ここで著者の言う「安心・満足説」と狩野説とを比較検討して, 前者がより高次かつ普遍的な概念であることを述べる.次に製品工学・生産技術・品質技術を駆使してもの造りをする現代の産業技術にあっても, 適切な品質を実現しようとするメーカのあるべき姿勢には, ユーザの「心」に応える主体性と, 「品質意識」が必要であることを論ずる, 品質意識は, モラルからというよりは, モラルよりも一段と根源的なものから, 必然的に生まれるものでなければならない.メーカの主体性と品質意識は, より根源的な, 世界と人間と生命に関する認識と, 「志」が支えるべきものであることを論ずる.最後に新しい品質の定義を示す.