本論では,総汚染排出量を目標上限以内に抑える環境政策にともなう社会的費用の最小化について,被規制企業の違法排出を考慮して分析している研究を紹介する.まず,Sandmo (2002)の不完全遵守モデルを再検討し,「経済的手法」の集計的汚染削減費用を最小化するという特性が不遵守に対して頑健でないこと,および,環境政策の社会的費用をより広くとらえる必要があることを確認する.次に,環境税のモニタリング問題を取り扱いすべての企業が完全脱税する状態が社会的に望ましいという主張をするMacho-Stadler and Pérez-Castrillo (2006)を再吟味し,主要命題の精緻化を行う.最後に,排出量取引制度の社会的費用を包括的にとらえすべての企業が完全遵守することが望ましいという結果を持つStrunland (2007)を取り上げ,罰則ルールの比較に関する命題を拡張する.