抄録
症例は62歳女性.約1年前から肛門より腫瘤脱出を認め,近医で直腸脱と診断されていた.今回手拳大の腫瘤が肛門より脱出,嵌頓し来院, saddle block下にこれを還納した.直腸(Rb)のほぼ全周性の柔らかい腫瘍で,一部に潰瘍形成を認めた.浸潤癌を伴う絨毛腺腫と診断し,直腸切断術を施行した.病理組織学的には9×7cmの絨毛腺腫であり,潰瘍部分にはsmに浸潤する高分化型腺癌を認め,傍直腸リンパ節転移陽性であった.
絨毛腺腫は本邦では比較的稀な疾患とされているが,近年報告例の増加が認められる.本疾患の主症状は肛門出血,下痢,粘液便であり,腫瘤脱出も比較的多い症状であるが,嵌頓したとの報告はきわめて稀である.治療上の問題点はその癌化率の高さと術式の選択にある.肉眼的に浸潤癌を示唆する所見(硬結,潰瘍)がみられ,組織学的にも癌が証明された場合には,当初よりリンパ節郭清を伴う根治的手術を行うべきである.