2023 年 29 巻 p. 527-532
羽村堰は,江戸時代初期に玉川上水の取水施設として設置され,享保の改革と寛政の改革で大きく改築された.基本構造は,自然取入れ方式から堰上げ取水方式となり,非常用洪水吐機能をもった複合構造物となった.管理体制は,民間委託から幕府直営へ,さらに常設の現地事務所による管理へと切り替わった.これらにより,河道と構造物を一体的に,平時から洪水時までを一連で管理する体制が整った.このような変化は,自然環境の中で妥当な地点を選択する技術から,構造物によって流水を制御する技術へ,さらに河川の力を借りて好ましい条件を創出する技術への進化である.また被害を最小化する工夫と平時から の復旧の準備による大規模な洪水への適応策である.本論では,羽村堰の基本構造と管理体制の変遷を分析し,江戸時代の河川伝統技術の考え方から現在の河川管理に活用すべき智恵について考察する.