本研究では,陸上競技短距離400m 選手1 名を対象に,ハムストリングスのI 型肉離れ受傷から競技復帰に至る一連のリハビリテーション期間において,受傷部位の筋力回復,心情の変化やトレーニング内容を事例的・包括的に追跡することで,競技復帰に向けたトレーニングの示唆を得ることを目的とした.肉離れ受傷から競技復帰までの72 日間において,Cybex を用いた膝関節屈曲・伸展筋力,痛みの主観的評価や股関節の可動域などを縦断的に調査した.対象選手は,早期に競技復帰ができ,復帰した400m 走レースで再受傷することなく大学ベストを更新した.本事例から,以下の示唆が得られた.①安静期間から鍼治療を受けることで早期に軽負荷なトレーニングが再開できる,②自転車エルゴメーターを用いたミドルパワートレーニングがスピード持久能力の向上に寄与できる,③ Cybex を用いた膝関節屈曲伸展筋力比や左右差の評価が競技復帰の目安になる,④競技会に出場することではじめて心理的な恐怖心が払拭できる可能性がそれぞれあること,また,⑤復帰競技会で再受傷せずに高いパフォーマンスを発揮するためには,レース前半の最大疾走速度を抑え,後半型のレースパターンを展開することが挙げられる.