2023 年 15 巻 p. 54-60
本研究は,セーリング競技を専門とする筆者が,フリックの持続時間を向上させるために行ったトレーニングに関する事例報告である.トレーニングは,初めに前腕の筋力向上を狙いとし,筋力トレーニング用のケーブルマシン(持ち手の部分はストレートバー)を用いた,フリックを模擬した間欠的運 動(10 秒運動× 10 秒休息× 10 セット)と,前腕の筋力トレーニングを1 ヶ月間実施した.その結果,持続時間は108 秒から134 秒まで向上したが,筆者の目標は180 秒であり,さらに46 秒の向上が必要であった.そこで,次の1 ヶ月は,トレーニング時の持ち手の部分を,ヨットで使用する用具に変更した.また,トレーニングの狙いを,広背筋などのより大きな筋群を用いた動作を習得することとした上で,間欠的運動(1 分運動× 1 分休息× 3 セット)のみを行ったところ,持続時間は183 秒まで向上した.以上の結果から,フリックの持続時間向上のためには,ヨットで用いる用具を使用しながら,フリックを模擬した陸上での補助トレーニングを実施することに加え,前腕の筋疲労が制限要因となっている場合は,補助トレーニングによって,広背筋などのより大きな筋群を用いた動作に改善することが,重要である可能性が示唆された.