本研究は,高校時代にイップスを経験した大学野球選手1 名を対象に,投球練習ギアFLECHA を用いたトレーニングが投球パフォーマンスに与える効果を事例的に検討したものである.トレーニングは,FLECHA のスローを1 日20 投,週に4 回以上,3 カ月間実施した.また,トレーニング効果を最大限反映させるために,トレーニング期間の3 カ月間は硬式球の投球を禁止した.その結果,投球腕の軌道の改善や,体幹や上肢を使った“ しなり” 動作の獲得,踏込脚の“ つぶれ” 動作の解消により,投球速度(Tre 前98.2 ± 3.0 km/h → Tre 後119.2 ± 2.2 km/h),ボール回転数(Tre 前1216.8 ± 80.3 rpm → Tre 後1484.2 ± 93.6 rpm)ともに有意に向上した.一方,3 カ月間,硬式球を投球しなかった影響で,正確性については一時的に低下したが,通常の活動復帰後すぐに元通りの状態にもどった.以上のことから, FLECHA を用いたトレーニングは,本対象者のような高校時代にイップスを経験した大学野球選手の投球パフォーマンスを向上させる可能性があることが示唆された.