抄録
近年の中国では、人口移動に伴う教育需要の偏在、農村部における学校統廃合や教員確保の困難、ICT整備水準の地域差が複合的に進行しており、資源配分の偏りが学習機会を介して教育成果の格差へ波及する可能性が指摘されている。しかし、自治体レベルの統計・財政資料と政策文書を統合し、都市部と農村部の比較を通じて、制度・政策が教育格差に関与する経路を体系的に整理した研究は十分ではない。
そこで本研究は、吉林省長春市を対象に、都市部・農村部の小・中学校における教育格差の実態を「教育資源」「教育環境」「学習成果」の三側面から検討するとともに、財政投入、教員配置、学校配置、ICT活用等の教育制度・政策が格差に作用するプロセスを概念的に整理し、両者の関連構造を明らかにすることを目的とした。分析には、長春市統計年鑑、長春市教育局の教育統計データ、長春市および各区・県政府の財政資料、関連政策文書を用い、学校規模・学級規模、教員配置と属性、施設・ICT整備、進学率・修了率等の指標について地域間比較を行った。
その結果、長春市の義務教育においては、都市部での資源集積が相対的に優位に働く一方、農村部では学校の分散配置や資源整備の制約が重なり、教育資源・教育環境・学習成果の各側面で地域差が確認された。また、制度・政策は資源配分を通じて学校条件に影響し、その学校条件の差が学習機会の差として表出することで、最終的に教育成果の格差へ接続しうるという作用経路が示唆された。今後は、学校・地域単位の追跡データ等を活用し、資源配分の変化が学校条件および学習機会を介して教育成果に及ぼす影響を、より精緻に検証することが課題である。