2016 年 6 巻 3 号 p. 367-374
ヒトiPS細胞の技術開発により, 今まで入手が困難だったヒト細胞をin vitro試験系に利用できることから, これまで実験動物等を用いていた医薬品候補物質の探索, 有効性, 安全性の評価等への応用に急速に関心が高まっている. さらに, 政府の「健康・医療戦略」 (2013年6月14日閣議決定) にも, 「新薬開発の効率性の向上を図るため, iPS細胞を用いた医薬品の安全性評価システムを開発する」と掲げられ, iPS細胞技術の出口戦略が期待されている. われわれはヒトiPS細胞由来心筋細胞の応用可能性を明らかにするため, 多点電極アレイ (MEA) システムを用いて催不整脈作用を検出するプロトコルを整備してきた. MEAプロトコルと予備検討結果をもとにして, 国立衛研が主体となり公的研究費に基づいて産官学の専門家によりJiCSA (Japan iPS Cardiac Safety Assessment) コンソーシアムを結成した. われわれは, 日本安全性薬理研究会, 日本製薬工業協会等と協力してプロトコルを開発し標準化した. 多施設間で再現性を検証することにより, 頑健な実験プロトコルを整備してきた. さらに, 催不整脈性リスクを評価するため, 多施設間で催不整脈性リスクの異なる60化合物を用いて大規模検証実験を実施し, 予測性を検証している. 一方, 米国ではFDAを中心とする国際的なコンソーシアムCiPA (Comprehensive in vitro Proarrhythmia Assay) が結成され, マルチイオンチャネルにフォーカスした統合的な催不整脈性リスク評価法を検証している. われわれは, CiPAのMyocyte Work Streamと実験プロトコルや評価指標, 選択的なイオンチャネル阻害剤等の予備検討結果を共有した. 日米EU医薬品規制調和国際会議 (ICH) S7Bガイドライン改訂を視野に入れた国際バリデーション試験が2016年から実施されることとなった. 本稿では, ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた安全性薬理試験法の開発, および国際標準化に向けた取り組みを概説する. これにより今後, ヒトiPS細胞を用いた心臓安全性評価の早期実現が期待される.