Sago Palm
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Print ISSN : 1347-3972
研究・調査報告
厚さの異なる熱帯泥炭土壌におけるサゴヤシの生長に関する比較研究
―マレーシア,サラワク州での例—
山口 千尋岡崎 正規金子 隆之米林 甲陽Hassan Abdul Halim
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1997 年 5 巻 1 号 p. 1-9

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抄録
 東南アジアに分布する熱帯泥炭土壌はその大部分が貧栄養,もしくは中程度の栄養状態である.マレーシア,サラワク州ではサゴヤシは主要な自給作物として栽培されてきた.サゴヤシは多年生の澱粉作物で泥炭土壌で栽培できる作物として経済的な重要性が増してきている.しかしながら,サゴヤシは生育立地によって生長が異なり,厚い泥炭層を持つ土壊に生育したサゴヤシは収穫に至る年数が,薄い泥炭層を持つ土壌,沖積土壌に生育するサゴヤシより長いという問題点を抱えている.本研究では泥炭層の厚さの異なる土壌におけるサゴヤシの生育について報告する.マレーシア,サラワク州,ダラット地区において,泥炭層の厚さの異なる2地点を設定し,1992年から4年間,樹齢の異なるサゴヤシの生育調査を行った.
 厚い泥炭に生育するサゴヤシが,ロゼット状態の生育から幹立ちして幹を形成するようになるまでの期間は供試木によって大きく異なり,サッカー移植後5,6年を要した.幹形成後1,2年の幹の伸長速度は著しく,その後,ゆるやかになった(94-127cmyr-1).出葉数も毎年異なったが,幹が形成されて3,4年は年間17.0から19.2枚(7 年生で最大値19.2),その後は12.0枚であった.幹が形成される期間を全出葉数から7-9年,様の期間を5-6年とすると,厚い泥炭層を有する土壌に生育するサゴヤシの成熟に至るまでの期間は12-15年と見積もられた.
 一方,薄い泥炭層を有する土壌に生育するサゴヤシの伸長速度は150-200cmyr-1であり,5年生で既に幹が形成されていた.その後の出葉速度は13.4-15.5であり,樹齢による顕著な差は見られなかったが,薄い泥炭層のサゴヤシは,厚い泥炭層のサゴヤシに比べ葉柄が長く,展開葉も多く,樹冠も発達していた.このように,厚い泥炭層に生育するサゴヤシは成熟に至るまでの期間が長く年間の単位面積あたりの澱粉生産量は低くなる.しかし,サゴヤシは泥炭土壌地域で大規模な排水を必要とせずに栽培できる唯一の作物であり,この地域の澱粉生産にとって重要な植物である.
 泥炭土壌地域におけるサゴヤシをさらに有効に資源化するには,優良品種の選抜と育種育苗(成熟に至るまでの期間の短縮),および合理的な栽培,管理が必要である.
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© 1997 サゴヤシ学会
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