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研究論文
L2日本語の主格標示の獲得:発話コーパス研究
野地 美幸
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2014 年 13 巻 p. 39-56

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抄録

本研究は,類型的に異なるL1背景を持つ(L1韓国語・英語・中国語の)L2日本語学習者が日本語の主格標示をどのように獲得するのかを調べている.発話コーパス資料の分析の結果,日本語の主格標示の獲得の過程においては,一貫してどの学習者群も主格標示はほぼ完璧で,格の誤りは極めて限定的であった.また,特に主格目的語構文の目的語への主格標示に関しては獲得の早い段階からL1の影響が見られた.こうした発見は,早期L2文法における機能範疇Tの存在を示唆するだけでなく,それがL1からの転移によるものであることを示唆している.もう一つの重要な発見はL1英語の日本語学習者が日本語児と同様に主格目的語構文の獲得過程において「を」であるべきところで「が」を過剰生成したことであり,これはパラメターの再設定を示唆する.したがって,最小構造 (Minimal Trees)仮説 (Vainikka & Young-Sholten, 1994)や完全アクセス (Full Access)仮説 (Epstein, Flynn & Martohardjono, 1996)ではなく,むしろ完全転移・完全アクセス (Full Transfer/Full Access)仮説 (Schwartz & Sprouse, 1994)が支持される.

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© 2014 日本第二言語習得学会
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