2023 年 75 巻 2 号 p. 123-129
がん抑制タンパク質p53 は細胞ストレスに応じて活性化され下流遺伝子の転写を促しがんを抑制する役割を有する.MDM2 は通常p53 に結合し不要な細胞死を防いでいるが,がん細胞においては過剰発現しp53 の働きを妨げることがある.そこでp53 とMDM2 の結合を阻害しp53 を活性化することでがんを抑制する薬剤の研究開発が行われている.本研究ではMDM2 に結合する部位のp53 由来ペプチドを変異させた阻害剤に着目し,正準分子軌道計算によりMDM2 との複合体の電子構造を解析した.その結果,複合体形成に伴う電荷の再配置や,変異ペプチドでは主にクーロン相互作用エネルギーで損得が生じていることを発見した.