抄録
氷河生態系は非常にシンプルな構造を持つため,土壌や海洋などの種構成が複雑な生態系では解析に困難を生じる生態学的研究の理想的な研究対象となる.また,アイスコア中の微生物は,古環境復元の新たな環境指標にもなる.たとえば,氷河上には雪氷環境に適応したごく少数の種類のバクテリアが増殖し,それぞれ氷河上流部,中流部,下流部など氷河の異なる環境に適応している.一方,土壌,海洋,動物腸内などから分離されたバクテリアも多数氷河から検出されることもわかってきた.本研究では,氷河から動物の腸内細菌が多数検出されたことから,動物の腸内で発生と伝搬している抗生物質耐性菌の耐性遺伝子の検索を行った.その結果,北極や南極を含む地球上の広い範囲の氷河から多くの耐性遺伝子が検出された.耐性菌の環境中への放出と伝搬は,人間の社会活動が環境に与えたインパクトの一つであると考えられる.人間の社会から隔絶していると考えられる雪氷環境は,そのインパクトを評価することを可能にする.