抄録
2009年にScience誌の指摘で明らかになった,IPCC第四次報告書におけるヒマラヤの氷河に関する誤った記述は,「ヒマラヤ氷河スキャンダル」もしくは「グレーシャーゲート」などと呼ばれ,その後,他の分野においても信頼性に乏しい記述が次々と明らかになったこともあり,IPCC全体の信頼性を揺るがす一大スキャンダルとなった.その一方で,世界の氷河研究コミュニティがヒマラヤを含むアジア高山域の氷河に目を向けるきっかけにもなり,ここ数年の短期間に数多くの研究成果が発表された.本稿では,このヒマラヤ氷河スキャンダルの経緯と原因,IPCCの対応を振り返ると共に,このスキャンダル以降に発表された論文を概観し,アジア高山域における氷河研究の現状と今後の展望を述べる.