環境科学会誌
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海岸漂着プラスチック粒(レジンペレット)中の有機汚染物質
―汚染物質含有量の地域差と樹脂種による相違―
間藤 ゆき枝高田 秀重ザカリア モハマドパウジ栗山 雄司兼広 春之
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2002 年 15 巻 6 号 p. 415-423

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抄録
 海岸漂着物中にレジンペレット(以下ペレットと略す)という直径0.5cm前後のプラスチック小粒が存在する。ペレットはプラスチック製品の中間原料であり,プラスチックは化学工場でレジンペレットとして粒状に重合製造され,成形工場に輸送されて製品に成形される。生産・輸送過程でペレットは環境中に漏出し世界中の海岸に漂着していることが報告されている。また,鳥類がこれを誤食して筋胃に蓄積することも報告されており,生物影響が懸念されている。著者らは前報で,ポリプロピレン(PP)製ペレットが海水からPCB及びDDEを吸着し海水の約百万倍の濃度に濃縮していること,プラスチック添加剤由来と考えられるノニルフェノール(NP)を高濃度に含有していることを明らかにし,ペレットが鳥類等の海洋生物への汚染物質輸送媒体になっていることを指摘した。本報ではPP製ペレットに加えてポリエチレン(PE)製ペレットの分析法を確立し,環境試料に適用した。日本の12海岸とマレーシアの7海岸で採取したペレットからは,PCB:1.2~890(ng/g),DDE:0.088~1600(ng/g),多環芳香族炭化水素類(PAH):0.047~8.8(μg/g),NP:0.018~17(μg/g),オクチルフェノール(OP):0~41(ng/g)が検出された。PCB,DDE,PAHは海水から吸着したものであり,濃度及び組成は両国の海洋汚染状況を反映していた。環境中から採取したペレットの分析結果と吸着実験の結果から,PEはPPに比べ疎水性汚染物質に対する吸着力が強く周辺海水から疎水性汚染物質をより多く吸着することが明らかとなった。一方PPは吸着力が弱いにも関わらず,NP,OPをPEより多く含有していた。これはPPにNP,OPの起源となるプラスチック添加剤がより多く添加されるためと考えられた。本研究の結果からペレットの生物への潜在的なリスクは,対象水域の汚染状況とペレットの種類により大きく異なることが明らかとなった。また,ペレットが周辺海水から疎水性汚染物質を吸着すること,その吸着量が水域の汚染状況を反映していることから,ペレットが海洋環境モニタリングの媒体として使える可能性が示唆された。
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