Ⅰ.目的
近年,摂食および嚥下機能に問題がある日本人児童が増加しており,児童の口腔機能は低下傾向にある1).歯列形態の成長は,歯列弓幅径の狭窄化傾向にあると報告されている2).不正咬合の発症には遺伝的・環境的要因とエピジェネティクスが関与しており,歯の形質は,遺伝的・環境的要因とエ ピジェネティクスが複雑に関与3)し,環境的要因としての口腔機能は顎顔面形態の成長発育に影響を与える.その中でも,咀嚼運動は,環境的要因のひとつであり,我々は咀嚼運動が歯列形態の成長発育に与える影響について調査を重ねている.臼歯ですりつぶすような咀嚼の臼磨運動を活発に営んでいる者は正中口蓋縫合に応力を与え,口蓋骨の側方成長に影響すること4)が下顎大臼歯の頬側への直立を促すことで叢生歯列の予防の可能について報告している.これらのことを正しく理解し,形態の成長について予測をすることは,矯正歯科治療の成功と長期安定性を左右する.現在,臨床において狭窄歯列に対する治療は,口腔衛生に優れ,取り扱いも簡便な可徹式装置を用いた緩徐拡大治療(slow palatal expansion以下,SPE)が頻繁に用いられるが,顎顔面形態の成長発育に影響を与える環境的要因,すなわち口腔機能の影響などについての介入は軽視されがちである.また,環境的要因を考慮した際の拡大様相についての統一した結論は得られていない.
そこで本研究では,咀嚼運動パターンがSPEによる拡大様相に与える影響について調査することを目的とした.