日本歯科保存学雑誌
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総説
上顎大臼歯近心頰側根第二根管, 下顎大臼歯遠心舌側根管・近心中央根管の概要と探索・治療のポイント
石崎 秀隆松裏 貴史山田 志津香吉村 篤利
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2023 年 66 巻 1 号 p. 6-22

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抄録

 歯根や根管の数は歯種によりある程度決まっているが,一定の割合で過剰な根や根管がみられ,これらは見逃しやすいため治療が困難となることが多い.根管治療後に良好な経過を得るためには,根管の見逃しや不十分な根管拡大・充塡を避けることが要求される.一般的に上顎大臼歯や下顎大臼歯は治療の難易度が高いことで知られるが,この過剰な根や根管がみられやすいことがその原因の一つとなっている.

 上顎大臼歯の近心頰側根は2根管であることが多く,口蓋側寄りの根管は近心頰側根第二根管と呼ばれ,肉眼では発見が困難なことが多い.これは近心頰側根第二根管の根管口が象牙質の張り出しで覆われていることが多いためであり,その根管口は近心頰側根第一根管と口蓋根管を結んだ線よりも近心に0.5~1.0mmほどのところに位置するとされる.近心頰側根第二根管は根管の拡大・形成は比較的容易と考えられ,根管口探索と根管上部の拡大がポイントになる.下顎大臼歯の遠心根は通常1根であるが舌側に過剰根がみられることがあり,Radix Entomolarisと呼ばれる.Radix Entomolarisは日本人や台湾人,中国人などモンゴロイドで多く観察され,日本人では23.6%にみられたとする報告がある.このRadix Entomolarisの多くは根中部から頰側へ湾曲しており,根管拡大形成を困難にしている.このため根管上部を十分拡大し,穿通や作業長測定には#10 Kファイルなどの細いファイルを用い,グライドパス形成後に柔軟でテーパーが小さいニッケル・チタンファイルによる拡大形成を行うことが望ましいとされる.また下顎大臼歯の近心頰側にはRadix Paramolarisと呼ばれる非常にまれな過剰根がみられることがある.下顎大臼歯の近心根は通常2根管であるが,まれにその間に近心中央根管がみられることがある.近心中央根管の発現は人種によって差があり,日本人の発現頻度は低いようである.近心中央根管は根尖付近で他の主根管に合流していることが多く,ニッケル・チタンファイルなどを用いて拡大・形成が行われる.しかしこれはイスマスの一部を拡大したにすぎないとする指摘もあり,術前のCBCT撮影などでの確認が推奨される.

 これらの過剰な根や根管は,必ずしもみられるわけではない.しかし探索や適切な根管拡大形成・充塡が困難な根管であり,再治療の原因となることが多い.根管治療を成功へ導くためには,各個人の歯根・根管形態を術前の検査で十分把握することが必要である.

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