日本歯科保存学雑誌
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66 巻, 1 号
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総説
  • 𠮷山 昌宏, 大原 直子, 松﨑 久美子
    2023 年 66 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー
  • 石崎 秀隆, 松裏 貴史, 山田 志津香, 吉村 篤利
    2023 年 66 巻 1 号 p. 6-22
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

     歯根や根管の数は歯種によりある程度決まっているが,一定の割合で過剰な根や根管がみられ,これらは見逃しやすいため治療が困難となることが多い.根管治療後に良好な経過を得るためには,根管の見逃しや不十分な根管拡大・充塡を避けることが要求される.一般的に上顎大臼歯や下顎大臼歯は治療の難易度が高いことで知られるが,この過剰な根や根管がみられやすいことがその原因の一つとなっている.

     上顎大臼歯の近心頰側根は2根管であることが多く,口蓋側寄りの根管は近心頰側根第二根管と呼ばれ,肉眼では発見が困難なことが多い.これは近心頰側根第二根管の根管口が象牙質の張り出しで覆われていることが多いためであり,その根管口は近心頰側根第一根管と口蓋根管を結んだ線よりも近心に0.5~1.0mmほどのところに位置するとされる.近心頰側根第二根管は根管の拡大・形成は比較的容易と考えられ,根管口探索と根管上部の拡大がポイントになる.下顎大臼歯の遠心根は通常1根であるが舌側に過剰根がみられることがあり,Radix Entomolarisと呼ばれる.Radix Entomolarisは日本人や台湾人,中国人などモンゴロイドで多く観察され,日本人では23.6%にみられたとする報告がある.このRadix Entomolarisの多くは根中部から頰側へ湾曲しており,根管拡大形成を困難にしている.このため根管上部を十分拡大し,穿通や作業長測定には#10 Kファイルなどの細いファイルを用い,グライドパス形成後に柔軟でテーパーが小さいニッケル・チタンファイルによる拡大形成を行うことが望ましいとされる.また下顎大臼歯の近心頰側にはRadix Paramolarisと呼ばれる非常にまれな過剰根がみられることがある.下顎大臼歯の近心根は通常2根管であるが,まれにその間に近心中央根管がみられることがある.近心中央根管の発現は人種によって差があり,日本人の発現頻度は低いようである.近心中央根管は根尖付近で他の主根管に合流していることが多く,ニッケル・チタンファイルなどを用いて拡大・形成が行われる.しかしこれはイスマスの一部を拡大したにすぎないとする指摘もあり,術前のCBCT撮影などでの確認が推奨される.

     これらの過剰な根や根管は,必ずしもみられるわけではない.しかし探索や適切な根管拡大形成・充塡が困難な根管であり,再治療の原因となることが多い.根管治療を成功へ導くためには,各個人の歯根・根管形態を術前の検査で十分把握することが必要である.

ミニレビュー
原著
  • 杉原 俊太郎, 両⻆ 俊哉, 渕田 慎也, 清水 統太, 井上 允, 琢磨 遼, 門田 大地, 櫻井 孝, 小牧 基浩
    2023 年 66 巻 1 号 p. 26-34
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

     目的:歯学部学生における治療手技の修得において,動画教材を用いた講義が,教材としての利便性や学習効率を向上させることが知られている.しかしながら,歯周治療における動画教材の有効性を客観的に検討した報告はいまだない.そこで本研究においてわれわれは,イラストや写真だけでは理解することが難しい歯周基本治療の手技について,動画を教材として用いることが学生の理解を助けるか,その有効性を検討した.

     材料と方法:2021年4月に進級した神奈川歯科大学歯学部3年生のうち,インフォームド・コンセントを得られた20名が参加した.無作為に動画群(女性4名,男性6名)と画像群(女性5名,男性5名)の2群に分け,それぞれが動画または画像を用いた歯周基本治療の事前講習(歯ブラシの把持法,バス法,スティルマン改良法,キュレットの把持法,スケーリング・ルートプレーニング,砥石とキュレットの把持法,シャープニング)を受けた.講習後,7つの課題について設定された評価基準により2名の教員が各手技の評価判定を行った.統計解析はFisherの正確確率検定およびWelchのt検定により,有意水準5%で行った.

     結果:2名の評価者が基準を満たしたと判定した場合を「できた」,それ以外は「できなかった」として課題ごとに集計した.いずれの項目においても,2つの教育手法に有意な差は認められなかった.次に,いずれの評価者も基準を満たしたと判定した場合を1点,1名のみが基準を満たしたと判定した場合を0.5点,2名が基準を満たしていないと判定した場合を0点として,7つの課題の合計点(7点満点)を算出した.その結果,動画群の平均点が有意に高かった(p=0.012).

     結論:内容や視聴対象により効果は異なる可能性があるが,歯周基本治療の動画教材は,学生の治療手技・技能の修得に一定の有効性をもつことが示唆された.

  • ―指導効果の検証―
    谷 亜希奈, 大森 あかね, 梶 貢三子, 樋口 鎮央, 柿本 和俊
    2023 年 66 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

     目的:われわれは,歯科保健指導に口腔内スキャナー(IOS)を活用することで,歯周組織の変化の定量化と可視化を図り,患者が歯周組織の状態を理解しやすくするとともに治療効果の診査の確度を向上させることを目的として検討を進めてきた.

     本研究では,従来の歯科保健指導方法とIOSを用いた歯科保健指導を比較検討し,IOSを用いた歯科保健指導の有用性について検討した.

     対象と方法:研究対象は,十分な歯科保健指導を受けた経験がない本学教職員および学生の計9名(平均年齢41.6歳)とし,歯科衛生士3名が,以下の歯科保健指導を研究対象者ごとに2週間以上の間隔をあけ,順序を変えて実施した.①従来法1:鏡のみを利用した歯科保健指導,②従来法2:鏡に加え口腔内写真とスタディーモデルを利用した歯科保健指導,③IOS法:IOS記録のみを利用した歯科保健指導.各回の歯科保健指導時には,歯周精密検査,プラークコントロールレコード(PCR)および歯肉の状態を記録するとともにIOSで口腔内を記録した.2回目以降は,研究対象者に記録時の不快感や指導のわかりやすさについて調査票に回答してもらった.IOSの記録は,3D測定データ評価ソフトウェアにて分析した.

     結果:IOSでの記録では,従来の歯周組織検査よりも詳細に歯肉の変化を把握できた.IOSによる記録を重ね合わせて求めた辺縁歯肉表面の偏差,すなわち変化量においては,プロービングデプス,歯肉の腫脹,発赤の検査結果およびBOPの変化との関係性が低かった.IOSを用いた歯科保健指導と従来の指導法との間には,指導効果の差は認められなかった.IOSによる記録を不快に感じる研究対象者がいたが,多くはIOSによる保健指導はわかりやすく,受けたい指導であると回答した.

     結論:現状では,IOSを用いた歯科保健指導の臨床的有用性は必ずしも高いとはえいない.また,IOSの記録を1歯ずつ位置合わせすることで詳細に歯肉の変化を把握できるが,非常に長い時間を費やすために臨床的に有用とはいえず,ブロック単位での位置合わせが適切と考えられた.しかしながら,IOSによる記録は,これまでの歯周組織検査とは異なる視点で歯肉を詳細に評価できる方法であり,患者・術者両者にとって理解しやすい方法である.今後,研究を進めることで歯科保健指導に効果的に活用できる可能性があると考えられる.

  • 伊神 裕高, 金山 圭一, 清水 雄太, 佐藤 匠, 森永 啓嗣, 安田 忠司, 辰巳 順一
    2023 年 66 巻 1 号 p. 47-58
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

     目的:2型糖尿病の治療薬として第一選択薬になっているメトホルミン(MT)は,近年歯周炎の発症予防や治療効果に関する研究が注目され始めている.本研究では,歯周炎の予防に歯肉へのMT局所投与が有効かどうかを明らかにすることを目的とした.

     方法:60~70週齢(Aged群),10週齢(Young群)雄性C57BL/6Jマウス各10匹を実験に供し,週3回4週間,第二臼歯口蓋歯肉に1% MT溶液を局所投与する実験群と,PBSを局所投与する対照群とに5匹ずつ振り分けた.最終投与から7日後に屠殺し,上顎骨と末梢静脈血を採取した.上顎骨は,マイクロCT撮影後,組織切片HE染色を行い組織像を観察した.末梢静脈血からは,血清中サイトカインを検出した.Aged実験群,Aged対照群各2匹のマウスから口蓋歯肉を採取し,歯肉からの創傷治癒関連遺伝子発現の定量解析を行った.前実験の結果を参考に,Agedマウス12匹を実験群,対照群に振り分け,上顎右側第二臼歯に絹糸結紮を行い,4日後に屠殺し上顎骨を採取した.上顎骨はマイクロCT画像より歯槽骨吸収量,組織像からは炎症細胞数,TRAP陽性細胞の数を計測した.有意差検定は,分散分析(ANOVA)を行った後にpost-hocとしてTukey検定を用い有意水準を5%に設定し,p値が有意水準を下回る場合には有意差ありと判断した.

     成績:Aged群,Young群ともに実験群と対照群を比較し,歯槽骨量に変化は認められなかった.Aged実験群の組織像では,投与部位周辺の接合上皮の付着が保たれていた.創傷治癒関連遺伝子の発現はAged-MT群において創傷関連遺伝子の発現が低下し,治癒関連遺伝子の発現の増加を認めた.また,血清中サイトカイン値の有意差は認められなかった.実験的歯周炎を惹起させたPBS-結紮群の歯槽骨吸収量はMT-非結紮群,PBS-非結紮群に対し有意に高かった.炎症細胞浸潤数は,PBS-結紮群に対してMT-結紮群およびMT-非結紮群で有意な減少を認めた.TRAP陽性細胞数はPBS-結紮群でPBS-非結紮群,MT-結紮群,MT-非結紮群に対して有意に増加していた.

     結論:加齢マウス歯肉へのMTの局所投与は,歯肉結合組織のコラーゲン線維量を維持,また歯肉組織で炎症を抑制していた.結紮前のMT局所投与により,実験的歯周炎の発症過程で生じる炎症と骨吸収を抑制していた.以上の結果から,歯肉へのMT局所投与が歯周炎の発症予防に有効である可能性が示唆された.

症例報告
  • 松尾 一樹, 荒井 昌海, 石渡 弘道, 鵜飼 孝
    2023 年 66 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

     緒言:前歯1歯欠損において,接着力の向上を背景に形成量の少ない接着ブリッジを用いた症例が報告されている.しかし,適応歯の選択が重要であり,条件が悪い場合には脱離しにくい工夫が必要である.今回,欠損の近遠心的幅が広く水平的に歯槽堤吸収も認められる症例に対して,環境改善を行った後に片側性の接着ブリッジにより修復した症例を報告する.

     症例:患者は67歳の女性で,4年前に抜歯した上顎右側側切歯の歯冠部を両隣在歯に接着していたが,それが脱離したため来院した.上顎右側側切歯部欠損は近遠心的幅が広く,水平的にも歯槽堤吸収が認められた.上顎右側中切歯および犬歯は健全歯であった.

     治療経過:審美性の回復とオベイト型ポンティック適用のため,上顎右側臼歯部口蓋より結合組織を採取して上顎右側側切歯部に移植した.また欠損の近遠心幅を狭くするために,上顎右側犬歯近心にコンポジットレジンを添加した.そのうえで,側切歯部に中切歯を支台とするオベイト型ポンティックの片側性ジルコニア接着ブリッジを装着した.接着後2年間,脱離や破折は認められていない.

     結論:水平的吸収の認められる歯槽堤とスペースの広い前歯欠損に対して,歯槽堤増大術とコンポジットレジン添加によるスペースの縮小を行うことで,片側性の接着ブリッジを適用でき,患者満足度の高い処置が実施できた.

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