抄録
本稿は、2010年以降に顕在化したグローバリゼーションの反転(覇権主義の台頭、地経学的分断、経済安全保障、制裁・輸出規制等)が、企業信用分析に与える影響をミクロ(ESGインテグレーション)とマクロ(ソブリン分析)の双方から検討するものである。まず、北米を中心にESGの「語られ方」は大きく変容したが、気候変動・人的資本・ガバナンス等、経済的尺度との結び付きが明確な要素は、企業価値と中長期の信用力に対し依然として本質的な重要性を持つことを示す。次いで、格付手法の枠組みと関連指標を踏まえ、ソブリン評価における経済力(とりわけ一人当たりGDP)の説明力は依然として高い一方、民主化の進展度との一貫した関係は限定的である。両者を統合すると、格付の水準は一人当たりGDPによりアンカーされる一方、格付の変更は財政・対外・流動性・イベント等によるという2重構造が観察され、結果としてソブリン信用評価の予見性が低下している可能性を示唆する。格付変更要因の多極化により、債券投資家はESG要素に基づくミクロ分析の深化により「企業個別のサステナビリティ」を見極める必要性とローカルな制度・地政文脈を織り込む「国家レベルの制度・地経学的不確実性」というマクロ的状況を見極める必要性の二層のリスク管理を並走させた信用分析の設計の必要性が高まっている。