抄録
症例は67歳,男性.2006年1月頃より抑うつ症状,被害妄想などが経時的に認められるようになり,同年4月にうつ病の診断で他院に医療保護入院した.薬物治療に難渋したため,同年5月に修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy; mECT) 目的で当院精神科に転院となった.既往歴,家族歴に特記事項はない.基礎心疾患はなく,安静時の心電図は軽度の左軸偏位と心室内伝導障害を認めるほかは異常所見なし.入院2日目に施行した第1回目のmECTは問題なく終了した.それから5日後に施行した第2回目のmECTにて,通電1分後より心拍数188/分のwide QRS頻拍が出現した.リドカインの投与で頻拍は停止せず,直流通電により停止させた.覚醒後の心電図に異常所見はなく,その後の諸検査においても器質的心疾患を疑う所見はみられなかった.mECTは重症精神疾患に対する安全性の高い治療法として積極的に施行されているが,通電直後には自律神経系の極端な変動が引き起こされることが知られている.本例は,mECTによる致死性不整脈誘発の可能性とともに,てんかん患者における突然死の原因を検討するうえでも示唆に富む症例と考えられた.