症例は20歳代の男性, 自殺目的にトリカブトの根を食したところ嘔気を認め救急要請された. 気管挿管, 人工呼吸器管理下に胃洗浄を施行し, 活性炭ならびに緩下剤を注入された. 次第に多源性の心室期外収縮が出現し, 多形性心室頻拍へ移行した. 抗不整脈効果を期待してリドカイン100mgの静脈内投与を行ったところ心室頻拍は消失した. 一定の効果が得られたと判断して同100mg/日の持続静注投与を行ったところ, 心室期外収縮は減少し, 第2病日には消失した. トリカブトの毒性の主成分であるアコニチン類は電位依存性Na+チャネルに作用し, Na+チャネルの不活性化を抑制するため, 撃発活動による後脱分極を誘発し, 上室性あるいは心室性の頻脈性の不整脈を発症させる. リドカインはNa+チャネルの不活性状態に作用し, チャネルとの結合と解離が速いことで知られており, 特に頻脈時では遮断されるNa+チャネルの割合が多くなるので, 本症例のように頻脈性の不整脈を呈した場合には有効である可能性が高い.