症例は50歳代男性. 前胸部・頚部の不快感のため他院を受診し, 冠動脈CTでLAD#7・#9に中等度狭窄を認めたので, アスピリン, アテノロールなどの投薬を受けた. その4日後, 買い物中に院外心停止となり, 目撃者による心臓マッサージが施行され, AED作動により心室細動が停止して自己心拍再開となった. 当院来院後の心電図は洞調律で, V2に早期再分極を認めたが, 心エコーでは異常を認めなかった. 緊急CAGではLADの中等度狭窄を認めたが, 冠血流は正常で急性冠症候群は否定的であった. 蘇生8日後に施行した冠攣縮誘発試験では, 冠動脈三枝に冠攣縮が誘発された. 最大冠拡張下のLADのFFRは0.80以上で有意狭窄ではなかった, 15日後の心臓電気生理学的検査では再現性のある心室性不整脈は誘発されず, ピルジカイニド負荷試験も陰性であった. β-blockerは冠攣縮増悪を来たしうる薬剤であるが, β-blocker内服開始4日後に心室細動となった冠攣縮性狭心症の症例を経験したので報告する.
症例は49歳の女性. 早朝より胸痛が出現し, 30分程度持続した. その後転倒し, 心肺停止となった. 救急車内の初期波形は心室細動 (VF) であり, AEDが作動した. 来院時自己心拍が再開しており, 自発呼吸も認められていたが, 意識障害が認められた. 緊急で心臓カテーテル検査を施行したところ#⑦に75%の有意狭窄が認められたため, 同部位にPCIを施行した. 虚血性心疾患に対しニコランジル内服を開始した. 後日, 検査前ニコランジルを中止とし, アセチルコリン負荷試験を施行した. コントロールの時点で#③に99%狭窄が認められた. 50 μg投与中に胸痛出現し, 下壁, 前胸部誘導でST上昇を認めた. その後VF出現しDC150J施行し1回でVFは停止した. 検査後はベニジピンを開始した. 冠攣縮性狭心症によるVFの予防としてのICD植込み適応はClass Ⅱbであったが, 再現性をもってVFが誘発されたため, ICD植込みを施行した. 冠攣縮性狭心症によりVFをきたしたと考えられる若年女性を経験したため報告する.
意識消失発作で搬送された30歳代の男性. 心エコー・MRI検査は正常で, ピルジカイニド試験も陰性であった. 心臓カテーテル検査の左室機能は正常で, 冠動脈に狭窄はなかったが, 冠攣縮誘発試験で右冠動脈近位部に99%狭窄が誘発された. またプログラム電気刺激で心室細動が誘発された. カルシウム拮抗薬とICD治療で退院したが, 心室細動の頻回発作で再入院した. 心室細動は同一波形と思われる期外収縮から生じていたが総数が少なく, 各種薬剤負荷でも期外収縮の誘発は困難であった. ペースマッピングでアブレーションを施行したところ当日夜に心室細動が頻回に生じ, 契機となる期外収縮の12誘導心電図が記録できた. 心室細動発症に先行してのST-T変化はなかったが, 胸部誘導にはJ波が記録されていた. 同波形に2回目のアブレーションを行い, 以降は心室細動の再発を認めていない. 冠攣縮試験陽性の特発性心室細動で, ICDメモリと発作時心電図が治療に役立った.
症例は31歳女性. 子宮頚部上皮内病変に対する円錐切除術のため, 脊髄くも膜下麻酔を施行した. その数分後に嘔気を訴え, 洞徐脈から心静止となり, 意識消失した. 心肺蘇生を行い, 意識はすぐに回復したが, 心電図モニター上, 心室頻拍となり再び意識消失した. 再度の心肺蘇生にも成功し, 直ちに当科紹介となった. 心電図にてⅠaVl誘導のST上昇, ⅡⅢaVf誘導, V1-3誘導のST低下を認めた. 虚血性心疾患を疑い緊急冠動脈造影を施行したが, 有意狭窄を認めなかった. 第9病日にHead up tilt testを施行した. イソプロテレノール3 μg/min負荷にて収縮期血圧・心拍数はそれぞれ130mmHg・78回/分から109mmHg・65回/分へ低下し, 同時に嘔気および冷汗を伴い, 検査陽性として中止とした. 第13病日にTl・MIBG2核種同時の心筋シンチグラフィーを行い, 左冠動脈前下行枝対角枝または回旋枝鈍角枝の領域の除神経を示唆する所見を認め, 冠攣縮性狭心症に合致する所見であった. 以上より, 冠攣縮性狭心症を伴う神経調節性失神による心停止と考えた.
今回, 脊髄くも膜下麻酔施行直後に神経調節性失神よる心停止に至り, さらには冠攣縮性狭心症も併発した貴重な症例を経験したので報告する.
原発性冠動脈解離 (spontaneous coronary artery disection ; SCAD) は稀な疾患であり, その頻度は冠動脈造影連続症例において0.1~1.1%と報告されている. 一方で, 急性冠症候群や突然死の0.1~0.28%にSCADの関与があると報告されている. SCADの原因としては動脈硬化や産褥, 冠攣縮などが挙げられているが, 原因の明らかではない特発性も散見される. 冠動脈造影が普及してきた現在で発見・報告が多くなってきているが, かつては死亡率80%で報告のほとんどが剖検例だったため重篤かつ予後不良な疾患とされていた. しかし, その重症度や予後は冠閉塞の有無・発症からの時間・血行再疎通の有無と梗塞サイズの大きさで規定されており, 治療が進歩した現在では急性期を乗り切れば比較的予後は良いとする報告もある. 一方, SCADに対する治療としては経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術などの血行再建の報告例があるものの明確な指針はなく, 個々の判断にゆだねられているのが現状である. 今回我々は, 1年間に当院で経験したSCADの2症例につき報告する.
症例は50歳代男性. 発作性心房細動と心房粗動に対するカテーテルアブレーション目的に当科入院となった. 入院前より持続していた心房粗動は三尖弁輪下大静脈間峡部のアブレーションで洞調律に復帰し, 引き続き心房細動に対する肺静脈隔離術を行う予定であった. 心房中隔穿刺と左右肺静脈造影を行った後, 肺静脈隔離の通電を開始しようとしたところで心電図上QRS幅が著明に拡大し急速に血圧が低下, 徐脈状態に陥ったため心肺蘇生を開始した. 経皮的心肺補助装置を装着後に行った冠動脈造影では, 左右冠動脈はいずれも起始部で完全閉塞していた. 冠血行再建術の準備中, 左冠動脈に冠血管拡張剤を投与すると血流再開が得られ, 右冠動脈も同様に冠血管拡張剤投与で血流再開し血行動態は回復した. 今回の事象の原因は左右冠動脈攣縮による全心臓虚血および急性循環虚脱と判断した. 心房中隔穿刺に伴う冠攣縮の報告は散見されるが, 通常心電図のST上昇で気づかれ, 速やかな冠血管拡張剤の投与で回復する. 本症例では左右冠動脈に高度攣縮が同時に生じ, 心電図上ST上昇ではなく伝導障害と徐脈という電気的異常を呈し, 重篤な病態に陥ったと考えられる.
症例 : 男性. 突然倒れる音に家人が気づき救急要請. 救急隊到着時, 心肺停止であり蘇生開始し, 9分で自己心拍再開. 当院救急搬送され, 血管障害を疑われ循環器内科紹介となった. 血圧184/113mmHg. 心拍数112/分. 著明な陥没呼吸あり. 心電図では明らかな虚血所見は認めず, エコーでの壁運動異常も明らかではなかった. 入院8時間後に血圧低下と前胸部誘導でのT波の陰転化, および心尖部の壁運動低下を認めた. 緊急心カテにて左主幹部の不安定病変を認め, PCIを施行. その後全身状態は安定していたが, flail chestのためweaning困難であり, 胸骨固定手術を施行. 呼吸・意識レベル良好にて10日目に抜管. 経過良好にて独歩退院となった. 心原性心停止蘇生でflail chestをきたした場合には内固定では長期の呼吸器管理を必要とし, 合併症の頻度も多く治療に難渋することが多い. 今回蘇生後で意識のない状態での早期のPCIと胸骨固定術の施行が良好な予後に寄与した.
症例は55歳男性. 高血圧で紹介医へ通院中. 20XX年X月X−1日, 気分不良を自覚し, 紹介医を受診した. 心電図にて特記所見なく, 帰宅となった. 翌X日, 紹介医の定期通院日のため再受診. 心電図にてV3-V6誘導に新規に0.3mVの下向型ST低下を認め, 急性冠症候群 (ACS) 疑いで当科紹介となった. ACSと診断し, 右橈骨動脈からの経皮的冠動脈形成術 (PCI) へ移行した. 左前下行枝に高度狭窄を認め同部位に対してPCIを施行したものの心電図変化の改善は得られなかった. カテ中に, X−1日の紹介医では正常だった血清クレアチニン値が, 当院来院時の採血で5.28mg/dLと異常高値であることが判明した. 引き続き急性腎不全の治療を行う方針としたが, カテ室で徐々に血圧低下をきたし心肺停止となった. 経皮的人工心肺補助装置 (PCPS) を挿入し, 造影CTを撮像したところ腹部大動脈瘤の下大静脈穿破を指摘した. 緊急開腹手術を行い, 何とか救命し得た症例となった. 腹部大動脈瘤の下大静脈穿破に急性冠症候群と急性腎不全を合併した貴重な症例と考えられ, 若干の文献的考察を交えて報告する.
大動脈解離に合併した心筋梗塞に対する治療は外科的手術が第一選択とされるが経皮的冠動脈形成術 (PCI) を行い良好な経過を得た報告もある. 左主幹部 (LMCA) 病変による心筋梗塞を合併した急性大動脈解離を2例経験し, 1例に対し緊急手術を, 1例に緊急PCI後に待機的手術を行い相反する転帰を得た. 1例は大動脈弁輪拡張症 (AAE) によるA型解離にLMCAを責任病変とする心筋梗塞を合併した20歳代男性で緊急手術を行ったが広範な心筋梗塞による心原性ショックで第2病日に死亡. 2例目もAAEを基礎疾患とし胸痛で来院した30歳代男性で, CTで大動脈解離は明らかでなく緊急造影を行いLMCA完全閉塞にPCIを施行し合併症なく経過した. 待機的手術で左バルサルバ洞に限局した大動脈解離を認め, 人工血管置換術を行い良好に経過した. LMCAを責任病変とする心筋梗塞を合併した急性大動脈解離に対しては, 手技的リスクは高いもののPCIによる血行再建を行うことが救命のために必須と考える.
75歳の男性. 急性冠症候群 (ACS) のため緊急冠動脈造影を施行した. 所見は左前下行枝 (LAD) #6の90%狭窄と左回旋枝 (LCx) #13および右冠動脈 (RCA) #1の慢性完全閉塞を認め, 大動脈内バルーンパンピング (IABP) サポート下にLADに対するPCIを行った. 第4病日にIABPを離脱. 第6病日朝にベッド上で心室細動 (VF) となり蘇生するがVFを繰り返しニフェカラントを開始. 同日夕にもVFを繰り返し, 冠動脈造影とLCxへの経皮的冠動脈形成術 (PCI) を実施した. その後QTc 550msを指標にニフェカラントを増量して投与を行い, 第8病日以降は心室頻拍 (VT) /VFは見られなくなった. 経口アミオダロンに移行. 虚血急性期のVT/VFと判断し, 左室駆出率も36%から41%に改善していたため植込み型除細動器 (ICD) 植込みを行わず退院. その後RCAに対するPCIを実施し完全血行再建した. 慢性期には確認冠動脈造影も良好な経過で左室区出率も60%と改善し, 4年間イベントなく経過している. ICDの適応について議論のある症例と考えられ, 考察も含めて報告する.
症例は20歳代の男性, 自殺目的にトリカブトの根を食したところ嘔気を認め救急要請された. 気管挿管, 人工呼吸器管理下に胃洗浄を施行し, 活性炭ならびに緩下剤を注入された. 次第に多源性の心室期外収縮が出現し, 多形性心室頻拍へ移行した. 抗不整脈効果を期待してリドカイン100mgの静脈内投与を行ったところ心室頻拍は消失した. 一定の効果が得られたと判断して同100mg/日の持続静注投与を行ったところ, 心室期外収縮は減少し, 第2病日には消失した. トリカブトの毒性の主成分であるアコニチン類は電位依存性Na+チャネルに作用し, Na+チャネルの不活性化を抑制するため, 撃発活動による後脱分極を誘発し, 上室性あるいは心室性の頻脈性の不整脈を発症させる. リドカインはNa+チャネルの不活性状態に作用し, チャネルとの結合と解離が速いことで知られており, 特に頻脈時では遮断されるNa+チャネルの割合が多くなるので, 本症例のように頻脈性の不整脈を呈した場合には有効である可能性が高い.
症例は63歳男性. 自宅で突然心肺停止となり救急要請された. 救急隊接触時の初期波形はVFであり, 除細動後にPEAとなった. その後, 胸骨圧迫を継続しながら当院へ搬送された. 当院到着後もPEAであり, 直ちにPCPSによる補助循環を開始した. 第2病日, 胸骨圧迫の合併症と思われる縦隔血腫および両側血胸が出現した. 血圧は低下し, PCPS回路の脱血不良も合併したため, 出血源である左右内胸動脈への動脈塞栓術を行った. 濃厚赤血球および新鮮凍結血漿も大量に補充し, 血行動態の維持に努めた. さらに両側血胸による酸素化の悪化も認めたため, 胸腔ドレナージを行った. 出血量減少および酸素化の改善に伴い血行動態は安定し, 第6病日にPCPSから離脱した. 第33病日に行った心臓カテーテル検査では, 左右冠動脈ともに冠攣縮が誘発された. 第47病日にICD植込み術を施行, 第66病日にリハビリ転院となった. PCPS管理中に胸骨圧迫による出血性合併症を併発した1例を経験したので報告する.
症例は50歳代男性. 他院で眼・肺・脊椎サルコイドーシスの加療中であった. 今回, 駅で卒倒し, モニターにて心室頻拍を認め, AED1回で心拍再開後に当院へ搬送された. 入院後, 持続性心室頻拍は認めなかったが, 労作に伴って非持続性心室頻拍や心室期外収縮を認め, 経胸壁心臓超音波検査にて左室側壁の壁運動低下も認めたため, 虚血性心疾患の鑑別のため心筋血流シンチを行った. 結果, 高位側壁枝領域に虚血が疑われ, 冠動脈造影検査を施行した. 冠動脈に有意狭窄を認めなかったが, 同時に施行したアセチルコリン負荷試験は陽性であった. 搬送時には胸痛はなく, 心筋逸脱酵素の上昇もなく経時的な心電図変化も認めず, 冠攣縮性狭心症は今回の心室頻拍の原因ではないと判断した. 心サルコイドーシスの精査では. 造影心臓MRIにて右室側壁・左室側壁・心室中隔に遅延造影効果を認め, ガリウム67-SPECT-CTでは上記部位に淡い集積を認めた. 心筋生検でも非乾酪性肉芽種を認め心サルコイドーシスとして矛盾しない所見であった.
今回の心室頻拍の原因は心サルコイドーシスであったと判断しICDの植込みを行った. ステロイドの導入についてはかかりつけ医にて開始することとした. 心サルコイドーシスと冠攣縮性狭心症の合併は稀であるが, 心室性不整脈発生の原因として念頭に置く必要があり, 若干の考察を交え報告する.
50歳男性. ペースメーカーを植込まれていた父親が50歳代で突然死している. 当院耳鼻科での手術中にモニター心電図上, 数秒のポーズを認め, 当科紹介. Holter心電図では無症候の40秒持続する単形性心室頻拍 (VT) を認めた. VTの頻拍周期は持続と共に約500msec程度から約300msecにまで短縮した.
心臓電気生理学的検査では房室結節不応期が長かったものの, HV時間は正常であり, ISP負荷下の心室プログラム刺激でもVTは誘発されなかった. 冠動脈造影・心臓MRIは正常像であった.
外来にてイベントレコーダー (Sorin社, SPIDERFLASH-t AFIB) を施行したところ, 動悸症状を伴った持続性VTに加え, 無症状の高度房室ブロックがドキュメントされたため, ICD植込みを決断した. 後日得られた心筋生検所見から心筋症が疑われた.
EPSを含め侵襲的検査では有意な所見が乏しく一旦経過観察としたが, イベントレコーダーによって新たに高度房室ブロックがドキュメントされ, 躊躇することなくICDを植込むことができた1例であり, イベントレコーダーの有用性が示唆された.
症例は77歳, 女性. 自宅で歩行時に意識消失し, 近医に緊急搬送された. 入院後に心室細動が出現し, 電気的除細動が施行された. 冠動脈造影では異常を認めず, 一過性の心房粗動・細動に対して血栓評価目的で経食道心エコーを行ったところ, 心房中隔に2cm大の腫瘤を認めた.
その後完全房室ブロックおよび補充調律による徐脈を認めたため, 精査加療目的で当院へ転院となった. 心臓腫瘍の精査目的で施行した造影MRIでは, T1で等信号, T2で高信号の造影効果のない辺縁整の腫瘤を認め, 嚢胞性腫瘍が疑われた. 心臓血管外科にて腫瘍切除術を行い, 病理検査にて気管支嚢胞と確定診断された.
心臓腫瘍の中でも房室結節近傍の腫瘍は房室ブロックを合併することが報告されているが, 房室中隔に発生した気管支嚢胞により心室細動を発症した症例報告はなく, 稀な1例と考え報告する.
はじめに : 筋強直性ジストロフィーは成人で最も頻度の高い筋ジストロフィー症であり, ミオトニア現象や握力低下で発症する症例が多いとされる. 今回我々は心室細動を初発とし診断に至った症例を経験したため報告する.
症例 : 23歳男性. 映画館内で映画鑑賞中に突然卒倒, 駆けつけた警備員により119番通報, CPR施行, AEDにより除細動された. 覚知から7分後に救急隊到着, JCS200自発呼吸があり, 当院からドクターヘリが出動, 覚知から26分後に患者に接触となった. 当院到着後に意識状態は変わらず, 12誘導心電図では左軸偏位, ST異常なし, 心臓エコーでは心機能良好であり, 有意弁膜症なしであった. 特発性心室細動として入院とし, 低体温療法を施行した. 第6病日に意思疎通良好であり抜管したが自力での喀痰排出困難であり再挿管としその後気管切開施行に至った. 父親が筋強直性ジストロフィーの家族歴や現症から筋強直性ジストロフィーによる不整脈および症状が疑われたため当院神経内科に紹介とし診断に至った.
結論 : 筋強直性ジストロフィーの初発症状が致死性不整脈である症例は多くはないとされるが存在することを認識する必要ある. 一方で筋強直性ジストロフィーでは麻酔薬に対する感受性亢進や悪性高熱発症のリスクが高いとされる. 低体温療法施行による長時間の筋弛緩薬や麻酔薬の使用が結果的に本疾患の嚥下障害や呼吸筋障害を増悪させた可能性があり, 注意を要すると考える.
症例は61歳男性. 以前より僧帽弁逸脱症を指摘されていた. 銀行で談笑中に失神した. 職員が心肺停止を確認しCPRを開始した. AEDが作動したものの, 救急隊到着時も心室細動は持続した. ドクターカー内で気管内挿管およびアミオダロン投与が為され当院へ搬送された. 緊急冠動脈造影で有意狭窄は認めなかった. 48時間の低体温療法後第8病日に抜管, 後遺症なく回復した. AED波形を解析すると, 心室細動 (VF) に対して2度の除細動が作動していたが, 停止後すぐにVFが再発していた. 第22病日にICD植え込み術施行したが, その後も心室期外収縮 (VPC), 非持続性心室頻拍 (NSVT) が散発しており, 第27病日にICDの作動抑制目的にトリガーVPCに対するカテーテルアブレーションを施行した. 心尖部よりの側壁, 前乳頭筋近傍でペースマップおよび局所の早期性が良好, 同部位の焼灼により致死性不整脈は消失, 誘発不能となった. 術後経過も良好であった. malignant bileaflet mitral prolapse syndromeに合併する心室頻拍に対するアブレーション治療の報告は稀であり, 文献的考察とともに報告する.
症例は81歳, 女性. 2014年12月初旬, 動悸と呼吸困難感を認め, 近医を受診. 100拍/分の頻脈と左室駆出率低下 (39%), ならびに肺うっ血を認め急性心不全の診断にて入院となった. 頻拍のコントロールが困難であり, 心不全の増悪をきたしたため, 2015年1月中旬, 当院に転院となった. 心電図上, 心拍数150~160回/分の心房頻拍を認め, 左室駆出率は11%とさらに低下していた. 薬剤による頻拍のコントロールが困難であり, 心不全の増悪を認めたため, 心臓電気生理学的検査, ならびにカテーテルアブレーションを施行した. 3次元マッピングシステムを用いた左房のactivation mappingで, 頻拍は, 左房天蓋部の右上肺静脈寄りやや前方を最早期興奮部位とするcentrifugal patternを呈した. 最早期部位では, P波起始部に25msec先行し, 単極誘導でQS patternを呈する電位が記録され, 同部位での焼灼で頻拍は停止した. 以後, 頻拍は誘発不能となり, 術後2カ月で左室駆出率は44%まで改善し, 1年以上経過観察中であるが頻拍, および心不全の再発は認めない.
症例は60歳代女性. 朝8時に自宅でうめき声を発し心肺停止状態となった. 救急隊到着時心室細動 (VF) であり, AED施行するが除細動されなかった. 当院到着後PCPSを装着し自己心拍が再開した. 心電図ではⅡ/Ⅲ/aVFでfQRSを認めた. 緊急心臓カテーテル検査を施行. 冠動脈造影・左室造影でたこつぼ心筋症と診断した. 循環動態は安定し同日PCPS離脱. 低体温療法を開始したが, 入院翌日直腸温34.7°Cの時点でV4-6のJwaveの出現・増大と, それに引き続くVFを認めた. VF・除細動を反復したが翌日には生じなくなり, J waveは消失しfQRSも減弱していた. 意識回復は不良であり気管切開施行. 入院第28病日心室調律となり心室細動に移行. 同日永眠された. たこつぼ心筋症においては心室性不整脈・心臓死をきたす症例も少なくない. 超急性期のみに出現するJ wave・fQRSの診断価値を含めて報告する.
症例は90歳女性. 全身倦怠感を主訴に近医を受診. 心電図にてV2-4誘導のST上昇および血液検査にて心筋逸脱酵素の上昇を認めたため急性心筋梗塞疑いとして当院へ救急搬送された. 緊急冠動脈造影検査を施行したが有意な冠動脈狭窄を認めなかった. また併せて施行した左室造影所見からたこつぼ型心筋症と診断し緊急入院とした. しかし, 入院第4病日に突然心肺停止となった. 心肺停止時の心エコー検査にて心嚢液貯留を認めたため, たこつぼ型心筋症による心破裂と診断した. そして死亡後に病理解剖を行った. 今回我々は, たこつぼ型心筋症に心破裂をきたした症例を経験したので, 破裂部位を含めた心筋病理像の検討および文献的考察を加えて報告する.
症例は79歳男性, 主訴は心肺停止蘇生後の意識障害であった. 家族と食事中に卒倒, By-stander CPR開始され, 心室細動に対しAEDが1回作動し自己心拍が再開した. 搬送後の心電図で前胸部誘導でのST上昇を認めたため緊急冠動脈造影を施行した. 冠動脈に有意狭窄はなく, 左室造影ではたこつぼ様の左室壁運動異常を認めた. 入院後は致死性不整脈を認めず, 壁運動異常も改善した. 心室細動の原因精査で施行したアセチルコリン負荷試験では左冠動脈びまん性の冠攣縮が誘発され, ICD挿入とカルシウム拮抗薬の内服にて退院とした. 心肺停止の原因として, たこつぼ心筋症, あるいは冠攣縮狭心症の関与が疑われた1例であった.
急性期に完全房室ブロックおよび多形性心室頻拍を呈し, 急性心筋梗塞とたこつぼ心筋症が同時に診断された稀な症例を経験したため, 報告する. 症例は81歳, 女性, 転倒による右大腿骨頚部骨折のため, 2014年12月某日前医で右人工骨頭置換術を実施し入院中であった. 2015年1月某日, 夕方に胸部不快を訴えた後一時的に意識を消失した. 心電図では完全房室ブロックに伴い非持続性心室頻拍の頻発が認められ, リドカイン静注の後に直ちに当院へ搬送された. 当院到着時心電図は心房細動から洞調律へ復し, Ⅱ, Ⅲ, aVF誘導でのST上昇, 胸部誘導での陰性Tが認められた. 緊急冠動脈造影では, 右冠動脈房室枝の閉塞が認められた. 冠動脈バルーン形成術を行い, 再灌流を得た. 左室造影では, 冠血管支配に一致しない左室心尖部の壁運動低下が認められ, 心基部の収縮は保たれ, たこつぼ心筋症の合併と診断した. その後房室伝導障害なく経過し, 完全房室ブロックは急性下壁心筋梗塞に伴ったものと推測された. 一方, たこつぼ心筋症に合併する房室伝導障害について現時点では一定の見解はなく, 今後とも注意深い観察が要すると考えられた.
症例は65歳女性. 11年前より透析導入となり, 腎移植されたが再度透析導入となったためシャント造設術を施行された. 導入2週間後, 透析中に頻回のTorsade de Pointes (以下TdP) を認めた. このときQTc延長 (660ms), 巨大陰性T波を認め, 心エコーでは左室心尖部はakinesisであり, たこつぼ心筋症様であった. 低カリウム血症 (3.2mEq/L) 補正を行うとTdPは認めず, 経過中にたこつぼ心筋症は軽快した. 4カ月後透析中にTdPを認めた. 心エコーでは左室収縮能は改善しており, 正常カリウム値を示し原因不明の繰り返すVFのため植込み型除細動器 (以下ICD) を植込んだ. 以降, 厳正なカリウム調節を行うことで, TdPを認めなかった. 今回我々は, たこつぼ心筋症, 低カリウム血症を契機にTdPを発症した透析患者の1例を経験したので, 若干の文献的考察を加え報告する.
当院で診療した, たこつぼ心筋症42症例のうち, 5例が経過中に死亡し, 突然死が2例, 心原性ショックが1例, 肺炎・膵がんが1例ずつであった. 突然死をきたした1例目は84歳女性, 高カリウム血症に伴う洞不全症候群で入院となった. 第4病日にV2-6のST上昇を伴う前胸部痛が出現し, 心尖部のバルーン状拡張を伴った. 冠動脈造影の準備中に施行した心エコーで左前下行枝の血流は保たれ, たこつぼ心筋症が強く疑われた. 心エコー中に急速に心嚢液貯留を認め心破裂と診断した. PEAとなり, 死亡した. 2例目は75歳女性, 右冠動脈に対してPCIを繰り返していた. 胸痛を再発したが, 冠動脈造影検査で右冠動脈#4AVの90%狭窄を認めるに留まり, 心尖部のバルーン状拡張を認め, たこつぼ心筋症と診断した. 翌日の血液透析中に胸部違和感を繰り返し, 透析開始後3時間31分で突然PEAとなり, 死亡した. 剖検では流出路狭窄を認めた. 以上の症例に若干の考察を加え, 報告する.
38歳女性. 失神歴・突然死の家族歴はなし. 高校生時より心室期外収縮 (VPC) を指摘されていた. 2015年8月, 仕事中に気分不良の後に失神し, 心肺停止となったため, 救急搬送された. 来院時の心電図では著明なQT延長とVPC二段脈~多形性心室頻拍 (Torsade de pointes様polymorphic VT) を認めた. 緊急冠動脈造影で狭窄病変は認めず, 左室造影で心基部の過収縮と中部以下の広範な壁運動低下を認めた. 経時的に巨大陰性T波が出現する一方で, 左室壁運動異常は回復し, 入院前日の多大なストレスイベントも後に判明したため, たこつぼ型心筋症と診断した. VPC (RVOT起源) が経過に影響した可能性もあり, 後日カテーテルアブレーションを行った.
たこつぼ型心筋症~QT延長~TdP/VFとなったのか, 遺伝性QT延長~TdP/VF~たこつぼ型心筋症となったのか, 判断に苦慮した症例を経験したために報告する.
症例は72歳男性. 大腸がん手術前に多形性心室頻拍を, 手術後にたこつぼ心筋症を合併した既往があり, 人工肛門閉鎖術のため再入院となった. 麻酔を導入し皮膚切開後に, モニター心電図上, ST上昇から房室ブロックを生じ, その後持続性心室頻拍に移行した. 心肺蘇生中に心室頻拍は自然停止した. 心エコー図検査では心基部の過収縮と中間部から心尖部にかけての壁運動低下を認めた. 心電図上, Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ, aVL, aVF, V2-V6誘導に陰性T波が出現した. 2週間後の心エコー図検査では壁運動はほぼ正常化した. 冠動脈の有意狭窄は認めず, 再発性たこつぼ心筋症が疑われた. 冠攣縮性狭心症の合併は否定できず, カルシウム拮抗薬を追加投与し, 以後心室頻拍の再発はない. 房室ブロックと心室頻拍を合併した, 再発性たこつぼ心筋症が疑われた1例を報告する.
症例 : 70歳, 女性
現病歴 : 多発性骨髄腫にて血液内科通院中.
肺炎にて血液内科で院加療中, 胸背部の違和感を自覚. 心電図にて急性冠症候群を疑われ当科介入となった.
経過 : 急性期心臓超音波所見は心基部過収縮かつ心尖部無収縮のたこつぼ様変化であった. 同日緊急冠動脈造影を施行し, 冠動脈に有意狭窄は認めず, 左室造影では超音波と同様の所見を認めたため, たこつぼ心筋症と診断した. 検査後CCUへ帰室とし経過観察とした. 帰室約7時間後に突然心停止となり, 直ちにCPRを開始するも心拍再開せず. CPR開始50分後, 死亡確認となった.
考察 : 原因究明の為, 病理解剖施行. 結果, 心臓周囲に血性心嚢液の貯留を認めた. さらに心尖部心筋内および表面に出血を認め, 同部位の心筋内出血と心筋変性を認めた. 同所見よりたこつぼ心筋症により心筋穿孔をきたし心停止に至ったものと考えた.
結語 : 症状出現から心破裂まで極めて早い経過を辿ったたこつぼ心筋症の1例を経験した.
症例は49歳女性. 職場にて突然心肺停止し, 救急車内で心室細動が確認されAEDにて除細動され心拍再開した. 当院に搬送され, 冠動脈造影検査を行うが有意狭窄はなく, 左室造影にて心尖部領域の壁運動低下があり, たこつぼ心筋症様の変化であった. 入院後, 壁運動異常の改善に乏しく, 精査を行ったところ心臓造影MRIで心尖部に遅延造影を認めた. ガリウムシンチグラフィーは陰性であり, 心筋生検を行うも異常所見は認めなかったが, FDG-PETを施行すると左室心尖部と胸部CTで斑状影のあった右肺とに異常集積を認めた. 臨床学的に心サルコイドーシスと診断し, ICD植込み術を行い, ステロイド治療を開始した. 治療過程において右膝蓋部に紅斑を認めたため皮膚生検を施行したところ, 類上皮肉芽種を認め確定診断に至った. たこつぼ心筋症様の壁運動異常を呈し, 心室細動が初発であった心サルコイドーシスの1例を経験したため報告する.
背景 : たこつぼ型心筋症は一般的に予後良好な疾患として知られているが, 時にQT時間の延長から, 致死性不整脈である多形性心室頻拍 (Torsades de Pointes : TdP) ならびに心室細動 (VF) を起こすことがある. しかしながら, その発生時期や時間帯などの詳細について不明な点も多い.
方法および結果 : 対象は2006年2月~2015年4月までに当院でたこつぼ型心筋症と診断した134症例のうち, 致死性不整脈は6例 (男性1例, 女性5例, 年齢73歳 (中央値) ) に発生した. TdPを4例に, VFは2例に認めた. 致死性不整脈発生時の平均QTc時間は691msと延長を認めた. 致死性不整脈はたこつぼ型心筋症発症後1-2日目が3例, 6-7日目が3例であり, 発生時間は午前6時台が2例で, 残りの4例は16時から20時であった.
結語 : たこつぼ心筋症における致死性不整脈の発生予測は困難で, 急性期にはモニターによる十分な監視が必要である.
症例は32歳, 女性. 心突然死の家族歴なし, 失神歴なし. 20XX年Y月自宅で倒れているところを発見され, 救急要請. 救急車内で心室細動へ移行し, 自動体外式除細動器にて自己心拍に復した. 数カ月前から過激なダイエットをしており, 入院時身長155cm, 体重35kg, BMI 14.57kg/m2. 血液検査上は空腹時血糖11mg/dLで電解質異常は認めず. 心エコー上は左室駆出率 (EF) 23%, 心電図上QTc 0.494であった. 入院後気管内挿管, カテコラミン, 糖液, ビタミン, 各種電解質投与にて治療を開始. 第1病日QTc 0.506, 第2病日目QTc 0.931と著明なQT延長をきたし, 脈なし多形性心室頻拍を認めた. この間明らかな電解質異常は認めなかった. 血清Kを高めに維持し, P, Mg投与を行った. その後全身状態の改善とともに, 第33病日にQTc 0.470, EF 62%と改善を認めた. QT延長症候群と続く多形性心室頻拍の原因として, 低栄養および低血糖の急激な補正によるRefeeding syndromeが疑われ, 補正方法を再検討すべき症例であったため報告する.
症例は36歳, 女性. 品胎にて平成XX年12月24日に帝王切開術施行. 以降, 子宮内感染に対しドリペネム, バンコマイシンが投与されていた. 感染が遷延し, 子宮筋層創部離開のため, 翌年1月14日再開腹術を行った. 術後経過良好であったが, 1月18日に意識障害, 痙攣発作が出現し, 間歇的にに多形性心室頻拍, 心室細動を繰り返した. QTc間隔が515msと延長していたことから, QT延長症候群による心室性不整脈と考えた. 低K血症, 低Mg血症の補正, リドカイン持続投与を行ったところ状態は安定した. 安定期にエピネフリン負荷試験を施行すると, Δcorrected Q-T endは128msであることから, 先天性QT延長症候群 (LQTS) 1が示唆された. ナドロール内服を開始し退院となった. 遺伝子検査にてKCN1の変異を認め, 父親にも同様の変異を認めた. 周産期に認められるLQTSはLQTS2が多いとされているが, 本症例は遺伝子検査によりLQTS1と診断され, 稀な1例と考え報告する.
症例は20歳男性. 2歳時に痙攣を発症し, てんかんの診断の下に抗てんかん薬が投与されたが13歳時に中止された. 17歳時に痙攣の再発作を認めた. 脳波にてんかん波を認めたため抗てんかん薬の内服が再開された. しかし18歳時に再度痙攣発作で救急搬送された. この時のQTcが460msと延長していること, 母親がQT延長症候群 (LQTS) と診断されていること, 運動負荷心電図で負荷終了後にQTc 650msまで延長したこと, 遺伝子検査でKCNH2の変異を認めたことからLQTS type 2と診断した. 繰り返す痙攣発作の原因として, てんかんと心室性不整脈を鑑別するために植込み型ループレコーダー (ILR) 植え込み術を施行した. その後, 痙攣発作時のILR記録が得られたが, 心室性不整脈を認めなかった. 以上の所見から, 痙攣発作はてんかんによるものと診断した.
近年, LQTSとてんかんは共通するイオンチャネル異常を有する可能性があること, その中でもLQTS type 2とてんかんは高い関連性を示すことが報告されている. てんかんとLQTSは臨床症状からは区別しにくいため, 発作時のECG記録が重要である. ILRはこのような病態の患者の治療方針を決定するために極めて有用である.
75歳女性. 急性気管支炎のためクラリスロマイシン (CAM) 400mg/日の処方を受けたが, 失神をきたし救急搬送された. 心拍数40/分の徐脈性心房粗動と洞調律時の2 : 1房室ブロックに伴う高度のQT延長 (QTc=583~641ms) を認め, 複数回の失神を伴う多形性心室頻拍の発症を認めた. 電解質異常やたこつぼ型心筋症を示唆する壁運動異常, 虚血性心疾患は認めなかった. CAM休薬9日後には房室ブロックは改善し, QT間隔も正常化した (QT, QTc=425, 467ms). EPSにおいて, ニフェカラントを投与しQT延長を再現したところ, Wenckebach周期は500msから600msに延長し, 545ms周期ではAHブロックに伴う2 : 1房室ブロックが再現された. アトロピン投与で房室伝導の改善はなかった. 房室ブロック時の右室刺激では, Wenckebach周期で心室筋が捕捉された. クラリスロマイシンがQT延長とともに房室結節レベルでの伝導障害に関与し, 多形性心室頻拍発症を促進した可能性を示唆する症例を経験したため報告する.
症例は61歳, 女性. 2009年10月に意識消失発作あり. 救急車内で心室細動が確認され, 電気的除細動で洞調律に復帰している. 心精査では, 明らかな器質的異常は認めず. 植込み型除細動器移植術後, β遮断薬単独およびアミオダロン併用療法下で運動負荷試験を施行したところ, 上室性期外収縮に引き続き, 連結期が280-320msecの右脚ブロック型上方軸の心室性期外収縮が出現し多形性心室頻拍に移行する心電図所見が観察された. 運動誘発性Short-coupled variant of torsade de pointesと考えられ, ベラパミルの内服加療が開始となるも植込み型除細動器の作動あり. 上室性期外収縮の抑制目的にピルジカイニドが追加され作動回数は減少したが, 完全には抑制されなかった. ベプリジルに変更したところ, これまで除細動器の作動なく経過している. 今回, 我々はベプリジルが有効であったと考えられる症例を経験したので, 若干の文献学的考察を加えて報告する.
症例は3歳の男児. 生後6カ月でFallot四徴症 (TOF) に対し修復術施行, 術後高度肺動脈弁逆流 (PR) が残存し加療中であった.
三輪車に乗っている際に心肺停止状態となり, 救急搬送された. 初期波形は心室細動であり, 電気的除細動器により停止するも, 啼泣および興奮時に繰り返し二方向性の心室頻拍 (VT) をきたした. β遮断薬・Ⅰ群薬での治療を試みたが発作抑制されず, 徐脈も著明となり増量困難であった.
心臓電気生理検査では瘢痕は見られず, プログラム刺激でVTは誘発されず, カテコラミン負荷で多源性VTが誘発された. VTは手術切開線と関連無く, 交感神経亢進時に誘発される二方向性VTで, カテコラミン誘発性多形性心室頻拍 (CPVT) と診断. 薬物治療は限界で高度PRもあり, 開胸下で右室流出路再建術, ICD心外膜リード植込みを行った. 心房ペーシング下でのβ遮断薬内服で, VTの再発は見られていない.
TOFにCPVTが合併した稀有な症例を経験したので報告する.
症例は1歳 男児. 啼泣後呼吸を止め, 生後4カ月に前医でBrugada症候群と診断. Holter心電図で784回/日のVfを認めた. Vfはイソプロテレノールとアトロピン投与によりほぼ消失. 硫酸キニジン等内服開始したが, Vfは完全に消失せず, ICD植込み適応と判断. 当院紹介され, 1歳1カ月でICD植込み. 経静脈的リード挿入は困難で, 心外膜内側に心外膜パッチを留置. その後Vf減少し, ICD作動はなかった. 1歳11カ月で呼吸困難を認めた. 心外膜パッチによる両心室拡張障害と判断し, ICD再植込み. 3歳1カ月頃より両心室の拘束性障害が進行し, 心不全入院を繰り返したが, Vfはほとんどなかった. 5歳過ぎに意識消失あり, VfのためICDが作動. また蛋白漏出性胃腸症と診断. その後も心不全入院を繰り返した. 8歳2カ月よりICD作動が増加. キニジン増量等を行った. 8歳5カ月の早朝にelectrical stormとなり, ICD作動したがPEAとなり, 永眠.
症例は20歳, 男性. 2014年8月夜間就寝中に心肺停止をきたし, 救急隊にて確認された心室細動 (VF) に計3回のAED施行され, 心拍再開後に当院転院搬送となった. 低体温療法を行い神経学的後遺症なく全身状態は改善. VF発作後の心電図にてJ waveを認めていた. 冠動脈造影検査では器質的狭窄はなく, 冠攣縮誘発試験陽性となりカルシウム拮抗剤を開始した. 電気生理学的検査ではVFは誘発されず, ピルジカイニド薬物負荷にてcoved型ST上昇ありBrugada症候群と診断, ICD植込み術を施行した. その後同年10月に一度VF発作あり, シロスタゾール, ベプリジルを導入した. 2015年7月に2回のVFへのICD適正作動あり, キニジン内服を追加した. その後VFコントロールに難渋したためアブレーション治療を行い再発なく経過している. 本症例においては, VF発作直後に記録された心電図ではJ waveの増強を認めるものの, Brugada ECGの出現はいままで認めていない. 今回, J waveとVF発作の関連が強く示唆されるBrugada症候群症例を経験したので報告する.
症例は36歳男性. 心室細動 (VF) のため当院に搬送された. 心電図や心エコーに特異的所見はなく, 冠動脈造影検査 (CAG) では有意狭窄を認めず, アセチルコリン (Ach) 負荷試験で右冠動脈に冠攣縮が誘発された. 心臓電気生理検査 (EPS) でVFは誘発されず, ピルジカイニド50mg負荷でもST変化は認めなかった. 冠攣縮性狭心症, または特発性心室細動と診断し, 植込み型除細動器 (ICD) 移植術を行った. 後日, 一卵性双生児の弟に対して, 治療方針決定のため検査を行った. CAGで有意狭窄を認めず, Ach負荷試験は陰性であった. EPSではVFは誘発されなかったが, ピルジカイニド負荷でBrugada型心電図 (Type 1) への変化を認め, ICD移植を行った. 一卵性双生児のBrugada症候群は稀でありピルジカイニドに対する反応についても示唆に富む所見と考えられるため報告する.
偶発低体温症患者では心電図上巨大なJ波 (Osborn波) を呈する. 時にVFを引き起こすが一般に復温以外に有効な手段はなく薬物投与は無効とされる.
今回偶発低体温患者のVF stormにイソプロテレノールを使用し著効した症例を経験したので報告する. 症例は69歳男性, 自殺目的に入水したが救助され当院へ搬送となった. 来院時深部体温は27.5度と著明な低体温であり, 心電図はHR 40回/分程度の心房細動で広範な誘導にOsborn波を認めた. 搬送後まもなくVFとなったため蘇生行為を開始した. DC施行すると一旦除細動されるもののすぐに再発した. その後はVFの再発と除細動を繰り返すVF stormの状態となった. 2度にわたるアドレナリンの投与は無効であり, イソプロテレノール投与を開始したところ, J波の著明な減弱を認めるとともに以後VFの再発を認めなかった.
症例は31歳男性, 主訴は意識消失発作. 2014年1月, 夜間就寝中にうめき声をあげ, 眼球が上転しているところを発見され救急要請された. モニターで心室細動 (VF) が確認され, 除細動後, 心拍再開し搬送された. 12誘導心電図, 心エコーで異常認めず, 冠動脈造影でも異常を認めなかった. その後, 心内膜心筋生検等で精査を行ったが, 器質的異常を認めなかった. 特発性心室細動の診断で植込み型除細動器 (ICD) 移植術を行い退院した. 2014年11月, VFに対してICD頻回作動しelectrical storm (ES) を呈した. 入院後にも, 夜間にESを呈し薬剤抵抗性であった. CCU病棟のモニター心電図で, 夜間のみに右脚ブロック型上方軸の単源性心室期外収縮 (VPC) を認め, VFはこのVPCを契機として開始した. VPCは僧帽弁輪から左室後中隔乳頭筋近傍が予想され, アブレーションを施行した. 検査中に指標とするVPCを認めず, モニターで記録したVPCを指標にアブレーションを行った. 左室voltage mappingでは低電位領域を認めず, pace mappingを行いgood pace mapが得られた部位とその周囲に通電を行い終了した. 以後, 約1年間経過し指標としたVPCを認めず, ESを回避している. 今回, 左室後中隔近傍のVPCを契機とした特発性心室細動に対してアブレーションが奏功した1例を経験したので報告する.