抄録
僧帽弁狭窄症に冠動脈塞栓症をひき起こした症例報告である.症例は39歳の女性で,20歳ごろより心弁膜症があった.2年前より体動時の心悸充進,呼吸促拍があるため本院外来に時々通院していたが,昭和51年1月14日,突然胸痛発作があり入院してきた.心電図ではI,aVL.V4.でQS patternを示し,LDH,CPK,GOTの上昇およびWBCの増加が見られた.数日で生化学検査所見は正常化したが,心電図は変化なく,10ヵ月後に行った心カテーテル,および造影検査では肺動脈喫入圧の上昇,肺高血圧所見および造影上僧帽弁狭窄所見を呈し,選択的冠動脈造影では,左冠動脈,対角枝の90%狭窄を認め,左室造影上,前壁から心尖部にかけてのHypokinesisが見られた.なお本症は,冠動脈硬化をきたすrisk factorはまったく,粥状硬化による心筋梗塞は否定的で,僧帽弁狭窄症に冠動脈塞栓症を合併したものと考えた.