抄録
56歳女性.右大腿骨の病的骨折に対して大腿骨離断術を施行し,切除部の標本にて悪性リンパ腫を疑った.その後,上室性期外収縮からST-T変化とともに第I度房室ブロック,洞性徐脈,徐脈性心房粗動,心室リズムへと心電図上多彩な経過をとり,ペースメーカーの植込みを行ったが心不全が次第に進行して死亡した.剖検所見では右心房全周に広く腫瘍が存在し,右室自由壁や心室中隔上部まで浸潤しており組織学的に細網肉腫と診断した.また,手術材料の再検討により骨腫瘍も基本的に同一の組織構造を呈する細網肉腫であることが確認された.本例において腫瘍の原発部位を明確に決定することは困難であった.心臓腫瘍は原発性と続発性とを問わずまれな疾患であるが,説明困難なうっ血性心不全の進行や心電図所見の急激な悪化をみた場合常に鑑別診断のひとつとして念頭におかねばならないと強く反省している.