抄録
症例は25歳,女性,昭和47年学校検診にて心雑音指摘され肺動脈弁狭窄兼閉鎖不全症と言われていた.昭和55年8月初産.昭和57年1月妊娠第6月に前置胎盤にて死産.この2回の妊娠期間中随時血圧は正常であった.今回昭和58年1月妊娠第4月に高血圧(170/112mmHg)と軽度タンパク尿を指摘され,3月31日妊娠中毒症の疑いにて本院産婦人科入院.5月30日心不全と肺炎にて内科へ転科.6月10日左心不全にて死亡.死後判明した尿中アドレナリンは200μg/日,尿中ノルアドレナリンは2,000μg以上/日であった.剖検にて左副腎に60g,右副腎にも褐色細胞腫を認めた.肺動脈弁は右尖と左尖が癒合し,2尖弁様となり狭窄後部拡張がみられた.心筋細胞に太さ,配列の異常のほか,各種変性像を示す筋線維も見られた.妊娠に合併した褐色細胞腫はわが国においてこれが20症例目となり,しばしば晩期妊娠中毒症と誤診される場合が多いので本症を中心とした鑑別診断について考察を行った.