抄録
心尖部肥大型心筋症は左室心尖部の限局性肥厚と心電図上の高電位差を伴う巨大陰性T波を特徴とする.しかしその成因はいまだ明らかでなく,今回本症の心電図についてコンピュータ.シミュレーシ欝ンを試みた.青木らの作製した正常QRST波を導出しうる心室興奮伝播・回復過程の三次元心室モデルの上に,(1)心尖部心内膜側に左室内腔がスペード型となるように心筋ユニットを加え,壁厚を正常時の1.5倍とし,(2)心尖部全体に肥大心筋が分布し,それらの肥大心筋に均一に長い活動電位持続時間(285msec)を与えた.以上の条件設定により,体表面QRST波を算出した結果,心電図上前胸部誘導でのR波は正常時のV4R波高を2.OmVとすると18%増高し,T波は陰転化し,V4で-1.45mVのいわゆる巨大陰性T波が得られた.(3)さらに本モデルにおいて起電力を決定する因子の1つである導電率を肥大心筋のみ正常の1.5倍としたところ,R波高は正常時より80%増大し,臨床上見られる心電図波形と極めて類似した結果が得られた.以上より心尖部肥大型心筋症における心電図上の特徴である高電位差を伴う巨大陰性T波を,肥大心筋の分布,活動電位持続時間,本モデルの上での導電率を考慮することによりシミュレートでき,本症の特徴的心電図波形の成立にこれらの因子が深く関与することが示唆された.